怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
「行けよ」
「行きてぇよ。でもあいつ置いていくってのがな」
「待ってるだろ」
「気が済むのがいつかわかんねぇんだぞ。1年で俺ちゃんと帰れるか?いや帰る。え…1年…決断出来ねぇ。しかも俺、今回アラスカで1ヵ月半も離れるって考えるだけで限界感じてんのに。」
「お前は子どもか」
「あー。オーロラって生で見るとさ心持ってかれんだよね。フィンランドでも見ること出来てさ、冬はすげぇ寒いけど一面の雪も空気も空も、もう全部魅力満載だし他の季節も全部いいんだよ。こう自然に抱かれて生きるって感じしてさ。何年かそこで季節を巡りながらシャッターを切るってのが夢でさ。いつも短い期間だから後ろ髪引かれて帰国すんだよね…俺の夢への足掛かりっていうか、もう行け、今だっていうきっかけみてぇな仕事なんだよ。それなのに、があぁぁぁ俺の夢がすぐそこにあるってのに決断できねぇ…。俺どうしたらいいんだ」
考えてみれば、瑛太が仕事に対して女で迷うというのを今まで見たことがなかった。
相談もせず迷わず行くから別れるわけで数度目にまた別れたと言った後は彼女の話しは聞いたことがない。
「柊ちゃん。あいつ連れてっていい?」
「は?冗談だろ?」
「会社辞めさせていい?」
「おい、入社してまだ1年だぞ」
芹沢とも離れられなきゃ夢も諦められねぇってとこか。
連れていってどうすんだよ。
お前は写真を撮ってる間、芹沢はどうすんだよ。
「あいつにも見せたい。自然の中に立つあいつの写真も撮りてぇし」
「旅行でいいだろ。休暇中にでも呼べばすむ話しだ」
「ダメだダメダメ。四季を全部見せてぇもん。朝から晩まで全部一緒に見てぇし」