怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
ピンポン
「はい。おはよう」
「おはよう」
すっかり仕度の終わった瑛太さんが迎えに来た。
私も玄関に鍵をかけると手を繋いでエレベーターに乗った。
最後のデートとかじゃありませんように。
心の中の不安が大きくなる。
新幹線に乗りコートを脱ぐといつになくスーツ姿。
「どうしたの」
「あぁ、あっちで仕事あんだよ」
「そうなんだ」
その間に実家に顔を出そうかなどと考えながら早起きとあって私も瑛太さんもほどよい揺れに瞼を閉じた。
あっという間に着き新幹線から在来線に乗り換える。
「ここからは特急なの」
「そうか」
何だか口数も少ないから不安がどんどん大きくなる。
新幹線で食べ損ねた朝食を特急の中で駅弁ですませる。
「美味いな」
「私はいつもコレ」
やっといつものような会話になってホッと息を吐いた。
食べ終わると車窓から窓を見ている瑛太さんの肩にもたれた。
決して近くはない生まれ育った町についたのは、お昼もまわった頃。
「仕事は何時から?」
「まだ平気」
観光センターとか見る?なんて笑いながら歩き私たちが通った中学が見えて来た。