怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
トラウマがあるとはいえ
生まれ育った町は美祈にとってかけがえのない場所。
波の音が途切れる事もなく海鳥の鳴き声も潮の香も目を閉じればすぐに思い出せるほど好きな場所だ。
東京へ出てきてからもマコやコタと一緒に帰省している。
あの頃のように虐められる事も何か言われる事もない。
「美祈ちゃん帰ってきたの」
「いつまでいるの?」
「また綺麗になって。すぐにお嫁に行っちゃいそうね」
近所に住むおばちゃんたちとの会話もスキだ。
きっと同級生たちも帰省しているだろう。
街に出て会ったとしても今更何も言わないはずだ。
それでも、そこへ出ていこうと思えなくて
ただ家のまわりの景色を眺めマコやコタと散歩をしたり
お互いの実家でご飯を食べたりするだけだ。
それが不満でもなくそんな時間が幸福でもあった。