怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
「明日は田舎みてぇなとこだぞ?」
これは、もう一度美祈の返事の確認のため。
「はい」
「そんじゃ7時な。早いけど平気か?」
「大丈夫です」
答えながらも二人の心の中は
――俺、変だ。
――私、変だわ。
それでもどちらも断る気持ちはまったくおきない。
「じゃあ7時にエントランスで。車掃除しとく」
俺、飯を食いに行ったらスタンド行きか。
明日の予定も今夜に変更。
「はい」
ドキドキしながらスマホとエコバックを交換する美祈。
そして会釈のあと歩きだそうとした美祈に
「名前ぐらい知ってた方がいいんじゃないか?」
「そこまで頭が回りませんでした」
笑っているのか古臭いメガネの奥の目がカーブを描いている。
「俺、5階に住んでる 氷室 瑛太」
「私は3階の 芹沢 美祈です」
再び会釈をして歩きだした美祈を見送りながら
「俺が悪いやつだったらどうすんだよ」
独りごちりながら会議の後は飲み会という柊哉の不在に
「相談出来ねぇじゃねぇか~」
一度天を見つめ歩き出した。