怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
牛丼屋を出ると何でだか急ぎ足。
駐車場に止めてある車のエンジンをかけスタンドに向かう。
撮影に出る時にしか乗らない車。
柊ちゃんも持ってたけど手放した。
俺たちには1台で十分だ。
長期に不在の間はたまにエンジンをかけてくれる。
ちょこっと走らせてもくれる。
だけど掃除はしてくれない。
ガスも入れてくれない。
愛情と違って友情とはこのレベルだ。
「女がいた頃は車に乗ったよな」
「乗ってどこに行くかもう思いつかねぇ」
「スーパーしか浮かばねぇな」
「ここは、徒歩で行けんだろ」
「だな」
淋しい路線を歩きつつあるようだが恋愛や結婚ってまさにタイミングだと思う。
勢いがなきゃ出来ない。
俺たちはその人生の大望に人々が励む頃、仕事にのめりこんだ。
付き合ってた女に愛想をつかされるほど夢中になった。
それに後悔はないが最近ちょっと寂しい。
30っていうラインが目前に迫ったからかもしれない。
それを過ぎちまえばまた気にもならないのかもしれねぇな。