怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
こっち向け。あっち向いて
車から降りて機材をおろすと途中からは舗装されていない道を歩く。
心配だったが美祈がよく話す事に瑛太も嬉しさを隠しきれない。
「重そうですね」
「何台もカメラやレンズが入ってるからね」
荷物を持っていない美祈の方が歩くのが遅い。
それでも小走り気味に一生懸命おいつこうとしていて
それが可愛くてもっと速足で歩く。
クククッ
笑っている事など知る余裕すらないだろう。
「この辺で撮るから」
バッグを地面へ置いた。
「どこにいたら邪魔にならないですか」
「好きなとこにいろよ。邪魔なら邪魔って叫ぶ」
「はい」
ほんとに素直。
「あんま遠く行くなよ」
「はい」
やっぱ俺、保護者だわ。
バッグを開けて1台のカメラを撮り出すと
「これ、貸してやるよ。デジカメだからスキに撮ってみな」
「いや、壊すと申し訳ないので」
「落とさなきゃ壊れねぇよ」
柊ちゃんにしか触らせないカメラを自ら貸す事も
後ろにまわり簡単に使い方を教える自分も楽しくて仕方ない。
「大きくて重いですね」
「一眼レフだからな」
俺も遊んでねぇで仕事しないと
瑛太もカメラを撮り出すと辺りの景色を見回してシャッターを切り始めた。