怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
「芹沢がスキなのか?」
「誰が」
「瑛太」
「俺が座敷童を?ないない。女じゃなくて座敷童とみてる。なんかさ、あいつ見てると何ていうか母性だか父性だかわかんないけど励ましてやりたくなんだよね」
それは、今わかる正直な気持ち。
柊哉もまた瑛太の気持ちを理解する。
「健気だよな。何かに怯えているような感じもするしな。少しでも目立ちたいと思う人が多い中で目立たないよう目立たないよう注意して過ごしてる感じがするんだよね」
「だよな。妹とかいねぇからわかんねぇけど、こんな感じなんかな。心配になっちゃうんだわ。今日誘ったのも下を向いて歩いて来たからどうした?って思ってたら誘ってたんだわ」
柊哉と話しながら、上司として美祈を見る柊哉の目は確かだと瑛太は思った。
「会社では、うまく溶け込んでんだよな?」
「あぁ。彼女を知ってる人は好感を持ってるよ。最初の頃はまぁあれこれ言う人もいたけど一生懸命なのは伝わるんだよな」
柊哉は立場上、人の目があるから彼女に対して特別な事は出来ない。
それは当然の事だ。
柊哉にとっても美祈にとっても誰かに見られたらマイナス要因しか浮かばない。
だが、瑛太は違う。
お互いが合意の上でどこかへ出かけたりするのに何ら問題もない。
瑛太であれば柊哉も安心。
「なんで俺らいつもこんなに真剣にあいつの事話してんだろ」
「やっぱりその座敷童の呪いってやつか?」
「30目前は呪いにかかりやすいってことか」
カツンとグラスを合わせた音が響き
それぞれの脳裏に浮かぶのは美祈の姿だった。