③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
(ああ子供ね…も、も、“もも”!
フフ、さあどうします?また “も” ですよ?)

(モモ……そういえば…桃みたいだ。
白くてうっすらピンク色で…まだ熟れる前の、ちょっと固くてはち切れそうな)

(ちょっと、なに言ってるんです課長。
文章はダメ、単語だけですよ?
マジメにやってくださいよも~)
(…………桃)

(ま、まあ、一回はいいとしましょう。次はナシですよ。
え~と『桃みたい』から、“い”……“いす”!はい、次は『す』から)

(す、好きだ)
(は?)

 少しの沈黙の後。

(や、やだ課長。“単語だけ” ルールだって言ったじゃないですか。いい加減、ふざけるのはやめて下さいよ)

 燈子は、擽ったそうに体をモゾモゾと動かした。

(ち、違う……)
(はいはい。違うんですよね。お手付き1回ですよ)
(違う。そうじゃない、違うんだ赤野!
も、もう我慢できない。俺は…俺は本当に君を!)

 いつしか大神は目を塞いでいた腕を下ろし、燈子を覆うように抱き締めていた。
(お、大神さん__)

ドクン。
二人の鼓動の波が重なり、大きく鳴った。
抱いた手に自然に力が込もる。


(君が___欲…)
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