③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
_にしてもコイツ。
 さっきから一体、何の香りを発してるんだ。
 いつものフローラル系コロンとは違う、甘ったるい、まるで脳幹を直接揺さぶられるような。
 さっきも俺はこれで頭がボーッとして……

 はっ、まさかこれは……フェロモン)!?。
 まさかこの俺が…この色気ゼロ女のフェロモンにヤられたってのか?!_

 大神が一人狼狽えていると、

 (課長……課長…ハァ)

 下からか細い声が聞こえてきた。燈子だ。

(こら、声は出すな。勘づかれる……って、どうした赤野!)

 眼だけで下を見ると、燈子の様子がおかしい。
 ぐったりと項垂れて大神の腕に縋っているじゃないか。

(息が…苦しくて…熱い…ハァ…)
(大丈夫か!?)

 そういえばここは、空調の効いた部屋の中のそのまた密室。
 只でさえ暑い上に、不埒に温度急上昇の大神と密着しているのだ。


 苦しい息の下、燈子は涙ながらに懇願した。

(手が動かせなくって…すみません課長。ブラウスの…上のボタン……外してください)

 は、ハイイイ?
 大神の体温は、もう0.5℃上がった。

(ババババカかッ、そんなコト出来るわけがないだろう!)

(そこを何とか。
…出来れば…し、下着のホックも外して…息が…息が出来ない)

 荒い息の下、やけに熱っぽく声で訴えかける燈子。
 
(だ、ダメだ!出来るわけがない。
そんなことをしたら…)


(お願いっ!私……もう限界で)
(俺も…俺ももう限界だ!)
 

(な、何が?!)
(ナニがだよ!)

 ガタガタッ。
 
 限界に達した2人には、自分達の声や音がつい大きくなっていることに全く気がつかない… 
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