③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
 ピタッと立ち止まった大神の、声が弾んでいる。
 再び歩き出した時には、いやにゆっくりと燈子の歩調に合わせてくれる。

 “そうかな?いや、そうでもないって…”

 などとブツブツ言う彼ににこやかに相槌を打ちながら、燈子は思った。

_近頃、この人を掌握し始めた自分が怖い_

「そう言えば赤野。
 これからのプレゼン用のデータのことなんだが…」
「ああ、それでしたらここに…あれ?」

「3ページ目の差し替えを頼みたいんだ。すぐに出来るか。ん?どうした、赤野」

 大神がにこやかに振り返った。

「あれ?あれあれ?…確かにここのポケットに…………ない」

 燈子の顔から、血の気が引いた。

「…どうしよう課長……落っことしちゃった」
「な…んだ…と」

 大神の笑顔が凍りついた。


「落としちゃいましたぁっ!
社長室にぃ!」

「ばっかやろおぉぉっ!!!」
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