③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
 寄り添ってフレンチ・レストランに入った2人から、10メートルほど離れた後ろの植え込みに、じっとその様子を見張る、二つの怪しい影があった。

 (おい、ありゃあ誰だ)
 (…見りゃわかるだろ、アホの赤野だよ)


(まじかよ、ひぇ~。しっかし、女は化けるもんだな、大神)

(はあぁ?どーこが。
いつもと全っ然変わらねえし。見ろよ、口なんか半開きで、バカみたいだろ!?)

 植え込みに伏せる大神は、パキッと小枝を踏みにじった。

(そうかな?いつもよりずっとシャレ可愛いと思うけどなあ)
 
(だからお前は、見る目がないんだよ!)

(あ、おい、入ったぞ。俺らも入るか)

(バカ。コーヒー一杯で粘れるような店じゃない。…出るまで待つ)

(うわ~、マジかよ)

_何だかコイツ…俺より必死だな_

 熊野は、さっきからやたらと爪を噛んでいる大神をまじまじと見つめた。


「何だよ、そんなの。
お前にちっとも似合わない…」


 無意識に呟く横顔に、熊野は苦笑うしかなかった。
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