③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
「あ…」

 離された唇を惜しむように瞳を潤ませる燈子を、彼は熱を籠めて見つめた。

「君は……不思議な魅力を持った女性(ヒト)だね」

 フルフルと小さく首を振る燈子に、彼は熱く語りかけた。
 
 
「食事の時に言ったことは嘘じゃない。
 ついお喋りになってしまって…
 あんな話を他人にしたのは、今日が初めてだ。しかも出会ったばかりの君に。

 私は…自分の安らげる場所を、今夜ようやく見つけられた気がする」

 彼の大きな掌が、燈子の肩をしっかりと掴んだ。

「君さえ良ければの話だが。
 これから二人で過ごせる部屋を取りたいと思う。
 今夜だけでなく、これからは私の傍にいてくれないか?仮初めでない本当の恋人として。
 私は……

 君ともっと話がしたい」


 どくん。

 燈子の心臓がきく跳ねた。


 私が、私なんかが
 この男(ヒト)に望まれている。
 彼の沢山の恋人のうちの一人として。

 昼間垣間見た風景。
 この人に、あんな風に愛されたなら、私はどうなってしまうんだろう。

 それだけじゃない。

 この人の傍にいられたら、今は即席メッキの私でも、女性として確実にグレードアップさせてくれるだろう。
 姿勢、話し方、マナー…それこそ今夜話してくれた映画のように、経験豊富で優れたレディに。

 そうしたら__

 とても手が届かないと、最初から諦めていた人だって…
 いつかは、振り向いてくれる日がくるのかも知れない。

 鼓動が一気に早くなった。

 彼はもう、微笑んでなどいなかった。真摯な瞳で、燈子をまっすぐ見据えている。


 燈子は、心を決めて顔を上げた。


「私___


 私は、ヒトシさんと今夜…」
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