③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
(か、課長ぉ。狭いっ)
(しっ、静かに…社長だ。入ってくるぞ)

 とっさに隠れた幅90センチのクロゼットは、2人がやっと入れるサイズ。

 燈子は、大神課長に後ろから抱き抱えられる姿勢で密着している。

(赤野、どうなってる?)

 課長に後ろから尋ねられ、燈子は空気孔の隙間から、外の様子を窺うが…
 耳が…くすぐったい。
 元来、大神の無駄にセクシーな声に弱い彼女は、プルッと身体を震わせた。

(えっと…社長と…あ、あともう一人入ってきますね…
あ~!あれはエントランスの華、原口さん)

(うっわ、まずいな)
(何が?)

(イヤ…別に)

 やがて二人は、部屋のソファ辺りで立ち止まった。
 外から会話が聞こえている。
  

「全く……
 君は困った子だね。役員会の最中に私を呼び出すだなんて」

「だって社長。昨日もその前もキャンセルだなんて…寂しくって…ミユ、ヒトシ君が他の誰かと逢ってるんじゃないかって…心配で」

「はっはっは。
 言っただろう?急な出張だったって。
 今の私には君が全てだよ…疑っているのかい?ミユ」

「う、ううんっ…バカバカ、ミユのバカ!
ゴメンなさい、ワガママな私を赦して」

「イヤ、丁度良かったよ。私だって、私だって君と逢いたかったんだ、原口くん」

「社長!
 いえ、ヒ、ヒトシ君~~っ」

「やれやれ……参ったな………ん」
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