泣き虫とヒーロー ~約束の四つ葉のクローバー~
少しだけ緩んだ郁人の腕の力。
私はその隙に腕を振り払ってかごを抱えながら後ろを振り向かずに走り出した。
「奈緒!」
郁人の叫び声が背中に刺さって、
足が、身体中が声に応えたい。
止まりたいよと叫ぶ。
だけど、それ以上に胸の痛みが、
脳の信号が今は振り返っちゃダメそう言っていたんだ。
干し竿のところに着くと
一気に洗濯物を干してから、
ため息をつきながら校舎の陰に隠れた。
郁人、追いかけてこなかった。
追いかけてこないでほしい。
追いかけてきてほしい。
似たようで正反対な感情が心を渦巻く。
きっと、
郁人の好きな人は美咲ちゃんだ。
私は体育座りをしながら声を押し殺して涙を流した。