光のワタシと影の私
虐められたきっかけ
最初は、ただの悪戯だろうと思った。
そして、もう被害には遭わないだろうとも軽く考えていた。
このときに、早い段階で親や担任の先生に相談していればもっと私の日常は変わっていたのかもしれない。
だけど、中学生だった私にはそんな勇気を表に出すことが出来なかった。
中学のとき、たまたま出くわした先では私ではなく別の子が虐めに遭っていた。黒縁のメガネを掛けていて体型も華奢と言える、如何にも大人しく真面目そうな感じの子だ。
虐めに遭っている子の教科書やノートを地面に落とされては踏みつけられていくという様子にたまらず私はそのやり取りに口を挟んでいってしまって虐めを止めるように告げたのだ。
私の声は意外にも大きいものだったらしく、この騒ぎに聞きつけてくる教師たちがいないとも限らないと考えたのか潔く虐めていた子たちはすぐにその場から走って行ってしまった。
「…大丈夫?」
地面に落ち、踏みつけられたことによってボロボロになってしまった教科書やノートの類を拾っている虐めに遭っていた子の様子をしゃがみ込んで顔色を伺うと先ほどまで何も言えずにただ虐めに遭っていたときとはまるで別人のように強気な表情と睨みつけるような眼差しをメガネのレンズ越しに私に向けてきたものだから逆に私はびっくりしてしまった。
虐めに遭うとたまらずに泣き出すんじゃないかと思っていたから。
だけど、その子からは泣く様子は微塵も感じられなかった。
「何、してくれんの?!助けるならもっと早く助けに来てよ!教科書もノートもボロボロじゃない!また新しく揃えなきゃ…親に何て言えば良いのよ!」
こういった虐めに遭うのは一度や二度ばかりではなかったらしく、教科書をボロボロにされるたびに何度も教師や親に適当な理由を付けてはお金を出してもらって新たな教科書を買い揃えていたらしい。
確かに私がもう少し早くこの場に来ていれば教科書もそれほど使い物に出来なくなるほど踏みつけられることもなかっただろう。でも、私が来るタイミングが遅かったからといって私に文句を言われるのは心外だった。
私に文句を言える勇気があるのならばなぜ自分から虐めてくる子たちに向かって言い返すことができなかったんだろう?
もうちょっと勇気を出していれば虐めに遭うことだって無かったんじゃないんだろうか?と思えた。
「…っ…仕返し、してやる…から…」
「え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった私は目を丸くするばかりで先に立ち上がった子を見上げながら首を傾げて問い掛けた。
「私が虐められてきたこと全部!アンタに仕返ししてやる!アンタにも同じ目に遭わせてやるから!」
そう言い残すとその場から彼女は立ち去って行ってしまった。
少しずつ冷静になってきた私が考えたのは、次に虐めに遭うのは私になるのではないかということだった。
別に私は他人に喧嘩を売るような真似をしたことはない。
寧ろ地味に学校生活を過ごしている生徒の一人なのだからなぜ虐め対象にならなければならないんだろう?きっとさっきの子もヒステリックになっていたせいでデマを言っているだけだと思っていた。
そう、私が虐めに遭うわけない。
これからも普通に、ううん。代わり映えの無い地味な学校生活を続けていくばかりだと思っていたのに次の日からの私の学校生活は変わることになってしまった。
まず違和感を抱いたのは下駄箱入れだった。
登校してきた際に上履きに履き替えようとしたところ上履きの中からは大量の画鋲が入っていたのだ。上履きいっぱいに詰め込まれるようにして入れられていたことから故意によってされたことだとすぐに分かった。
すぐに画鋲を近くのゴミ箱に入れて画鋲の残りがないか念入りに確認してから上履きに履き替えると教室に向かった。
挨拶程度なら交わすことが出来るクラスメイトたちが廊下にいることに気が付いておはようと声を掛けたもののチラリと私の顔を見るだけで何も言葉を返してくれない。最初は聞こえていないのかな?ともう一度おはようと挨拶をしたけれど結局無視されたまま教室に着いてしまった。
そこで私は信じられない光景を目の当たりにすることになってしまった。
黒板には大きな文字。
『鳴宮麗華に何を言われても無視しましょう!無視出来たら一万円あげるよー!』
私自身の目を疑ってしまうようなことが書かれている黒板に慌てて駆け寄っていくと黒板消しで白く書かれている大きな文字を念入りに消すことに集中した。
だけど、これを目にしたからって本当に私のことを無視するとは思えない。ちょっとした悪戯として終わるかもしれない。
でも、先日虐めの場面から助けてあげた子の言っていたことが今でもリアルに思い出すことができる。
『仕返ししてやるから!』
もしかして仕返しとは、私を虐める対象とすることなのだろうか。
まだ心の中では信じたくないという気持ちがあったけれど今朝の廊下ですれ違ったクラスメイトの様子からしても黒板に書かれていたことを実行していたとすれば既に私への虐めが始まっているようなものだ。
誰かに、相談しなければもっと自体は大きく広がっていってしまうだろう。
でも、もしも相談しても聞き耳持たずに無視されたら…?
こういう虐め問題に関しては教師の力が多かれ少なかれ必要となってくるけれど、先生に相談したとしても軽い悪戯か何かだとされてスルーされてしまったら…?
私の味方になってくれる人物が…見当たらない。
こんなことになるんだったらもっと交友関係を広げておけば良かった。そうすればいざとなったときに頼りになる存在になってくれる。
もうすぐ中学校生活に終わりを迎えようとするときだったのに嫌な思い出を作ることになってしまった。
虐められている人を助けたら自分が虐められる対象になる…?
そんな馬鹿な話しが…実際に私の身に起きてしまった。
虐めが始まった中学校生活はただただ一人で耐えることしか出来なかった。
一番私の近くにいてくれている家族に相談してみようかとも考えたけれど、家族はきっと『気のせいよ』と言うだけだ。そう大事に捉える気はしないはずだ。歳の離れた姉は小さな頃から頼りになる姉できっときちんと私の話しを聞いてくれるかもしれないけれど何分仕事が忙しい姉に頼るのはちょっと気が引けてしまって出来なかった。
だけど、私の生活は嫌なことばかりではなかった。
もちろん学校での生活は、先生に見られないところでは数々の虐めに遭ってきたけれど、家に帰ればインターネットで最近注目を集め始めている『REI』という人物の素晴らしさに出会うことができた。これは私が今までインターネットという趣味を止めることなく楽しみ続けてきた結果だ。
『REI』は、ライブハウスで歌っていたアマチュア歌手らしいのだが最近発売されたファーストシングル曲はもの凄い人気で店舗によっては売り切れになってしまうほど人気の高い歌手であることがインターネット上においても騒がれる人物となった。
事務所を通した公式のブログも日々更新しているらしく、ブログを見る人の数も多くて『REI』に向かって応援メッセージを送っている人も多かった。
私のそのうちの一人だった。
そして、もう被害には遭わないだろうとも軽く考えていた。
このときに、早い段階で親や担任の先生に相談していればもっと私の日常は変わっていたのかもしれない。
だけど、中学生だった私にはそんな勇気を表に出すことが出来なかった。
中学のとき、たまたま出くわした先では私ではなく別の子が虐めに遭っていた。黒縁のメガネを掛けていて体型も華奢と言える、如何にも大人しく真面目そうな感じの子だ。
虐めに遭っている子の教科書やノートを地面に落とされては踏みつけられていくという様子にたまらず私はそのやり取りに口を挟んでいってしまって虐めを止めるように告げたのだ。
私の声は意外にも大きいものだったらしく、この騒ぎに聞きつけてくる教師たちがいないとも限らないと考えたのか潔く虐めていた子たちはすぐにその場から走って行ってしまった。
「…大丈夫?」
地面に落ち、踏みつけられたことによってボロボロになってしまった教科書やノートの類を拾っている虐めに遭っていた子の様子をしゃがみ込んで顔色を伺うと先ほどまで何も言えずにただ虐めに遭っていたときとはまるで別人のように強気な表情と睨みつけるような眼差しをメガネのレンズ越しに私に向けてきたものだから逆に私はびっくりしてしまった。
虐めに遭うとたまらずに泣き出すんじゃないかと思っていたから。
だけど、その子からは泣く様子は微塵も感じられなかった。
「何、してくれんの?!助けるならもっと早く助けに来てよ!教科書もノートもボロボロじゃない!また新しく揃えなきゃ…親に何て言えば良いのよ!」
こういった虐めに遭うのは一度や二度ばかりではなかったらしく、教科書をボロボロにされるたびに何度も教師や親に適当な理由を付けてはお金を出してもらって新たな教科書を買い揃えていたらしい。
確かに私がもう少し早くこの場に来ていれば教科書もそれほど使い物に出来なくなるほど踏みつけられることもなかっただろう。でも、私が来るタイミングが遅かったからといって私に文句を言われるのは心外だった。
私に文句を言える勇気があるのならばなぜ自分から虐めてくる子たちに向かって言い返すことができなかったんだろう?
もうちょっと勇気を出していれば虐めに遭うことだって無かったんじゃないんだろうか?と思えた。
「…っ…仕返し、してやる…から…」
「え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった私は目を丸くするばかりで先に立ち上がった子を見上げながら首を傾げて問い掛けた。
「私が虐められてきたこと全部!アンタに仕返ししてやる!アンタにも同じ目に遭わせてやるから!」
そう言い残すとその場から彼女は立ち去って行ってしまった。
少しずつ冷静になってきた私が考えたのは、次に虐めに遭うのは私になるのではないかということだった。
別に私は他人に喧嘩を売るような真似をしたことはない。
寧ろ地味に学校生活を過ごしている生徒の一人なのだからなぜ虐め対象にならなければならないんだろう?きっとさっきの子もヒステリックになっていたせいでデマを言っているだけだと思っていた。
そう、私が虐めに遭うわけない。
これからも普通に、ううん。代わり映えの無い地味な学校生活を続けていくばかりだと思っていたのに次の日からの私の学校生活は変わることになってしまった。
まず違和感を抱いたのは下駄箱入れだった。
登校してきた際に上履きに履き替えようとしたところ上履きの中からは大量の画鋲が入っていたのだ。上履きいっぱいに詰め込まれるようにして入れられていたことから故意によってされたことだとすぐに分かった。
すぐに画鋲を近くのゴミ箱に入れて画鋲の残りがないか念入りに確認してから上履きに履き替えると教室に向かった。
挨拶程度なら交わすことが出来るクラスメイトたちが廊下にいることに気が付いておはようと声を掛けたもののチラリと私の顔を見るだけで何も言葉を返してくれない。最初は聞こえていないのかな?ともう一度おはようと挨拶をしたけれど結局無視されたまま教室に着いてしまった。
そこで私は信じられない光景を目の当たりにすることになってしまった。
黒板には大きな文字。
『鳴宮麗華に何を言われても無視しましょう!無視出来たら一万円あげるよー!』
私自身の目を疑ってしまうようなことが書かれている黒板に慌てて駆け寄っていくと黒板消しで白く書かれている大きな文字を念入りに消すことに集中した。
だけど、これを目にしたからって本当に私のことを無視するとは思えない。ちょっとした悪戯として終わるかもしれない。
でも、先日虐めの場面から助けてあげた子の言っていたことが今でもリアルに思い出すことができる。
『仕返ししてやるから!』
もしかして仕返しとは、私を虐める対象とすることなのだろうか。
まだ心の中では信じたくないという気持ちがあったけれど今朝の廊下ですれ違ったクラスメイトの様子からしても黒板に書かれていたことを実行していたとすれば既に私への虐めが始まっているようなものだ。
誰かに、相談しなければもっと自体は大きく広がっていってしまうだろう。
でも、もしも相談しても聞き耳持たずに無視されたら…?
こういう虐め問題に関しては教師の力が多かれ少なかれ必要となってくるけれど、先生に相談したとしても軽い悪戯か何かだとされてスルーされてしまったら…?
私の味方になってくれる人物が…見当たらない。
こんなことになるんだったらもっと交友関係を広げておけば良かった。そうすればいざとなったときに頼りになる存在になってくれる。
もうすぐ中学校生活に終わりを迎えようとするときだったのに嫌な思い出を作ることになってしまった。
虐められている人を助けたら自分が虐められる対象になる…?
そんな馬鹿な話しが…実際に私の身に起きてしまった。
虐めが始まった中学校生活はただただ一人で耐えることしか出来なかった。
一番私の近くにいてくれている家族に相談してみようかとも考えたけれど、家族はきっと『気のせいよ』と言うだけだ。そう大事に捉える気はしないはずだ。歳の離れた姉は小さな頃から頼りになる姉できっときちんと私の話しを聞いてくれるかもしれないけれど何分仕事が忙しい姉に頼るのはちょっと気が引けてしまって出来なかった。
だけど、私の生活は嫌なことばかりではなかった。
もちろん学校での生活は、先生に見られないところでは数々の虐めに遭ってきたけれど、家に帰ればインターネットで最近注目を集め始めている『REI』という人物の素晴らしさに出会うことができた。これは私が今までインターネットという趣味を止めることなく楽しみ続けてきた結果だ。
『REI』は、ライブハウスで歌っていたアマチュア歌手らしいのだが最近発売されたファーストシングル曲はもの凄い人気で店舗によっては売り切れになってしまうほど人気の高い歌手であることがインターネット上においても騒がれる人物となった。
事務所を通した公式のブログも日々更新しているらしく、ブログを見る人の数も多くて『REI』に向かって応援メッセージを送っている人も多かった。
私のそのうちの一人だった。