光のワタシと影の私
歌披露
そして早速行動を起こそうとしたのはREIのほうだった。
午後はお互いに予定らしい予定も無かったということで私にちょうど空いているレコーディングスタジオに来て欲しいとお願いされたのだ。
「えっと…いきなり、歌うの…?」
もちろんREIの新曲を一般人の私が知っているはずもないからいきなり歌えと言われても無理な話しだ。そもそも人前で歌を歌うことになるなんて何年以来のことだろう…。REIしか聴いていないと分かっていても絶対に緊張してしまって音を外しまくるかもしれない。
「あはは、大丈夫大丈夫!ワタシだってライブではいつもぶっつけ本番!音なんて外しまくりだよ?勢いでその場を凌いじゃうことだってあるんだから」
そうだ。
CDなどとは違って生のステージで歌うライブというものを数多く経験してきているREIならば何度も緊張や不安を体験してきていると思っていたけれど、逆に勢いに任せてしまってその場をなんとか凌いできてしまっているというのだから驚きだ。
でも、音を外しまくってしまっていたらCDどころでもなくなってしまう。
まずは、人前でも歌える自信を持たなければならない。
「自信?うーん…ワタシは歌うことが好きで…別に得意だとか不得意だとかってことは考えたことは無かったけれど…やっぱり楽譜に沿って音を正確に歌うことも大事かー…」
歌うことはREIのほうが先輩だというのに、なぜか今更なことのように口元に片手を添えながら私の言うことにうんうんと小さく頷いていた。
「とにかく!まずは、歌ってみよう!ワタシが過去にCD化した歌でも構わないし、他の歌手の曲でも構わないよ?ワタシだって麗華の歌を聴いて新曲の作曲を直したり検討したりしてみたいし…」
「…じゃあ…REIのファーストシングル曲で…」
「あ、懐かしい!デビュー曲から聴いてくれてるんだ。あは、凄く嬉しいよ!」
REIはこれまでに何枚ものCDを売りに出しては世間を騒がせている。
ファンはデビュー当時から考えていけば信じられないほどの規模にまで広がりを見せてきており、海外にまでREIを気に入っているファンまでいるらしい。おかげでREIのブログには多くのファンからのメッセージが書き込みをされてきていることもあってなかなかREI本人からの返事がなかなかされなくなってきてしまった。
「言っておくけど!私本当に音痴だからね?!後になってからどうなっても知らないよ?!」
「ふっふっふー。大丈夫大丈夫!」
まったく。
何が大丈夫なんだか…。
最近、REIとメールや通話のやり取りをしていると、歳の離れた姉を思い出してしまう。
音楽関係の事務所で忙しなく働いている姉はとても自慢だが、そこまで仕事をしなければならないのかと思ってしまうほどの仕事人間だった。
REIも姉との出会いがきっかけとなってデビューに至っているらしいのだが、姉と過ごすうちにだんだん姉の性格が似てきているようにも思えた。
落ち着いた喫茶店から外に出ると余計に暑さを感じるような時間帯に出てきてしまって失敗したなぁと思いつつREIと二人で事務所に向かうことにした。
「おはようございます!今日、Aスタジオ午後から空いてましたよね?ちょっと借りても良いですか?」
まるで自分の家や庭を歩くように先を行くREIはやっぱり一人の芸能人なんだなと思えた。
自分のやることに迷いが無い、感じられないのだ。
事務所にいた人と一言二言会話のやり取りをしてからREIはスタジオの鍵を受け取るとAスタジオとやらに移動を開始した。
「あちこち歩きまわらせちゃってごめんね?スタジオもこの階にあれば良いのにー…」
「ふふ。でも、スタジオも事務所と同じ階に設置されてたら逆に大変なんじゃない?養成所の人とか歌手と出会いまくりになっちゃうかもよ?」
「あ。それもそっか~…」
ちょっとした会話のやり取り。
これも友達との会話のやり取りになるんだろうけど、私にはとても新鮮だった。
家族以外と会話らしい会話をしたことが無いまま高校生になってしまったから同い年の子とどんな話しをすれば良いのか戸惑うこともあったけれど、REIは積極的に会話を振ってくれるから困ることがない。
良い、友達に出会えたと思う。
「はい、到着!ここがAスタジオだよ!」
「…スタジオって聴いてたけど、特に何も無いんだね…?」
「そうそう。そんなもんだよ~?スタジオなんて。曲の収録のときはスタッフさんが何人か別室で待機するぐらいだし、マイクと楽譜を置くぐらいだからはっきり言って普段は何も無い部屋だもの」
そう言いながら初めてスタジオという空間に足を踏み入れた私はどうして良いか分からずにREIの行動ばかり目で追ってしまっていた。
どうやらマイクと音響機器のセット、そしてファーストシングルのCDを音響機器にセットしていった。
「楽譜は?一応、必要だったりする?」
「あ、うん。あったほうが助かるかも…」
「OK!…えーっと、どこにやったかなー…」
音響機器の傍に置かれている引き出しのなかを漁っているREIの手にはいつの間にか楽譜が持ち出されており、マイクの傍に立てかけたスタンドに楽譜を広げると私に向かって近くに来い来いと手招きされた。
手招きされるがままにセットされたマイクの傍に立つと一気に心臓がバクバクと鼓動を速め出した。
それだけ緊張している証拠だ。
「…ふふ、緊張しまくりって顔だね?はい、深呼吸!吸って~、吐いて~!」
私の緊張を少しでも緩めてくれるように一緒になって深呼吸をしてくれるREIに少しだけ笑ってしまったけれどおかげで無駄な緊張は解くことが出来た。
「よっし、じゃあ音楽掛けるよー!音なんて外しても良い!思いっきり麗華だけの歌を歌ってみて!」
「うん!」
REIが音響をセットしていくと何度も聴いているファーストシングルの曲が流れ出していく。そのメロディーに合わせてタイミングよく歌い始めた私はそれこそ歌うことだけに集中してしまって音響機器からじっと私の様子を眺めているREIの表情なんて見る余裕は無かった。
午後はお互いに予定らしい予定も無かったということで私にちょうど空いているレコーディングスタジオに来て欲しいとお願いされたのだ。
「えっと…いきなり、歌うの…?」
もちろんREIの新曲を一般人の私が知っているはずもないからいきなり歌えと言われても無理な話しだ。そもそも人前で歌を歌うことになるなんて何年以来のことだろう…。REIしか聴いていないと分かっていても絶対に緊張してしまって音を外しまくるかもしれない。
「あはは、大丈夫大丈夫!ワタシだってライブではいつもぶっつけ本番!音なんて外しまくりだよ?勢いでその場を凌いじゃうことだってあるんだから」
そうだ。
CDなどとは違って生のステージで歌うライブというものを数多く経験してきているREIならば何度も緊張や不安を体験してきていると思っていたけれど、逆に勢いに任せてしまってその場をなんとか凌いできてしまっているというのだから驚きだ。
でも、音を外しまくってしまっていたらCDどころでもなくなってしまう。
まずは、人前でも歌える自信を持たなければならない。
「自信?うーん…ワタシは歌うことが好きで…別に得意だとか不得意だとかってことは考えたことは無かったけれど…やっぱり楽譜に沿って音を正確に歌うことも大事かー…」
歌うことはREIのほうが先輩だというのに、なぜか今更なことのように口元に片手を添えながら私の言うことにうんうんと小さく頷いていた。
「とにかく!まずは、歌ってみよう!ワタシが過去にCD化した歌でも構わないし、他の歌手の曲でも構わないよ?ワタシだって麗華の歌を聴いて新曲の作曲を直したり検討したりしてみたいし…」
「…じゃあ…REIのファーストシングル曲で…」
「あ、懐かしい!デビュー曲から聴いてくれてるんだ。あは、凄く嬉しいよ!」
REIはこれまでに何枚ものCDを売りに出しては世間を騒がせている。
ファンはデビュー当時から考えていけば信じられないほどの規模にまで広がりを見せてきており、海外にまでREIを気に入っているファンまでいるらしい。おかげでREIのブログには多くのファンからのメッセージが書き込みをされてきていることもあってなかなかREI本人からの返事がなかなかされなくなってきてしまった。
「言っておくけど!私本当に音痴だからね?!後になってからどうなっても知らないよ?!」
「ふっふっふー。大丈夫大丈夫!」
まったく。
何が大丈夫なんだか…。
最近、REIとメールや通話のやり取りをしていると、歳の離れた姉を思い出してしまう。
音楽関係の事務所で忙しなく働いている姉はとても自慢だが、そこまで仕事をしなければならないのかと思ってしまうほどの仕事人間だった。
REIも姉との出会いがきっかけとなってデビューに至っているらしいのだが、姉と過ごすうちにだんだん姉の性格が似てきているようにも思えた。
落ち着いた喫茶店から外に出ると余計に暑さを感じるような時間帯に出てきてしまって失敗したなぁと思いつつREIと二人で事務所に向かうことにした。
「おはようございます!今日、Aスタジオ午後から空いてましたよね?ちょっと借りても良いですか?」
まるで自分の家や庭を歩くように先を行くREIはやっぱり一人の芸能人なんだなと思えた。
自分のやることに迷いが無い、感じられないのだ。
事務所にいた人と一言二言会話のやり取りをしてからREIはスタジオの鍵を受け取るとAスタジオとやらに移動を開始した。
「あちこち歩きまわらせちゃってごめんね?スタジオもこの階にあれば良いのにー…」
「ふふ。でも、スタジオも事務所と同じ階に設置されてたら逆に大変なんじゃない?養成所の人とか歌手と出会いまくりになっちゃうかもよ?」
「あ。それもそっか~…」
ちょっとした会話のやり取り。
これも友達との会話のやり取りになるんだろうけど、私にはとても新鮮だった。
家族以外と会話らしい会話をしたことが無いまま高校生になってしまったから同い年の子とどんな話しをすれば良いのか戸惑うこともあったけれど、REIは積極的に会話を振ってくれるから困ることがない。
良い、友達に出会えたと思う。
「はい、到着!ここがAスタジオだよ!」
「…スタジオって聴いてたけど、特に何も無いんだね…?」
「そうそう。そんなもんだよ~?スタジオなんて。曲の収録のときはスタッフさんが何人か別室で待機するぐらいだし、マイクと楽譜を置くぐらいだからはっきり言って普段は何も無い部屋だもの」
そう言いながら初めてスタジオという空間に足を踏み入れた私はどうして良いか分からずにREIの行動ばかり目で追ってしまっていた。
どうやらマイクと音響機器のセット、そしてファーストシングルのCDを音響機器にセットしていった。
「楽譜は?一応、必要だったりする?」
「あ、うん。あったほうが助かるかも…」
「OK!…えーっと、どこにやったかなー…」
音響機器の傍に置かれている引き出しのなかを漁っているREIの手にはいつの間にか楽譜が持ち出されており、マイクの傍に立てかけたスタンドに楽譜を広げると私に向かって近くに来い来いと手招きされた。
手招きされるがままにセットされたマイクの傍に立つと一気に心臓がバクバクと鼓動を速め出した。
それだけ緊張している証拠だ。
「…ふふ、緊張しまくりって顔だね?はい、深呼吸!吸って~、吐いて~!」
私の緊張を少しでも緩めてくれるように一緒になって深呼吸をしてくれるREIに少しだけ笑ってしまったけれどおかげで無駄な緊張は解くことが出来た。
「よっし、じゃあ音楽掛けるよー!音なんて外しても良い!思いっきり麗華だけの歌を歌ってみて!」
「うん!」
REIが音響をセットしていくと何度も聴いているファーストシングルの曲が流れ出していく。そのメロディーに合わせてタイミングよく歌い始めた私はそれこそ歌うことだけに集中してしまって音響機器からじっと私の様子を眺めているREIの表情なんて見る余裕は無かった。