光のワタシと影の私
結果は…?
普段、カラオケも行くことが無いからたった一曲歌うだけでもかなりカロリーを消化した気がした。
額は軽く汗ばんできてしまったし、知らず知らずのうちに力んで拳を握っていた手のひらにはうっすら汗を掻いていた。
もちろん楽譜通りに歌えたとは思えなかった。
音だって外しまくっていたし、REIの美声と比べたら…いや、比べることそのものが失礼にあたってしまうほどの歌声だった気がする。
ただただ最後まで歌うことに精一杯で、曲のメロディーが終わったと同時に静かになるとスタジオの床にぺたんと私は座り込んでしまった。
必死になって歌うということはこんなに疲れることだっただろうか?そう考えるとREIの音楽活動というものはとても根性が必要なものだと思えた。
パチパチパチ。
これは手を叩いている音だ。
一体どこから…?と思って顔を上げて音が発している方向に視線を向けると音響機器の傍に立っているREIが拍手をしていた。
「…っ…ご、ごめんね?やっぱり音痴で…」
「そんなことないよ!凄く…なんて言ったら良いのか分からないけど、胸が熱くなった!だから感動しちゃったよ~!」
聞き間違い、見間違いでなければ良いのだがREIの瞳はうるうると潤んでいたし、声も少しばかり震えているように聞こえた。
私の歌声で感動…?
まさか、そんなこと。
信じられなかった。
地味で、学校では虐めに遭っているような私の歌声で感動するなんて…どこに感動する要素があるのか疑問だった。
「やっぱりワタシ、麗華とデュエットしたい!麗華の声を聴いて本当にそう思ったの!」
「え、でも…」
「ごめんね?実は内緒で麗華の歌声録画しちゃった。それはリアルタイムで事務所のスタッフさんや鳴宮さんにも聴こえるように繋げてあったの。ごめん…勝手なことして。確かに音は外していたし、素人の歌だったけれど、歌声はこう…ぎゅっと胸元を抑えたくなるような…そんな感じがしたの!」
何やら音響機器を弄っているなぁと思っていたけれど、まさかリアルタイムで私の歌声が事務所内で披露されていたなんて恥ずかしい!
「だ、駄目!やっぱり駄目だよ!私なんかとデュエットなんて勿体無い!REIはもっと凄い人とデュエットしたほうが良いよ!」
「…その凄い人って…麗華はどんな人のことを言うの?ワタシは、素直に麗華の歌声が凄いと思う」
「だって、私は地味だし…虐められてるし…」
「関係ないわ」
私があれこれと理由を返す前にピシリとREIの一言によって返す言葉を続けることが出来なくなってしまった。
「地味、虐められている生活…それは歌には関係無いと思う。地味だから歌っちゃ駄目?虐められているから歌う権利も無い?そんなこと無いでしょ」
私は地味や虐めに遭っていることでどこかで逃げる口実を作ってしまっていたのかもしれない。
「……本当に、私なんかで…良い、の…?」
「うん。寧ろ、麗華じゃなきゃ駄目なの」
未だに床に座り込んだままの私と視線の位置を合わせてくれるかのようにREIも床に座り込むと私の目をしっかりと見つめてははっきりと言い方を改めて告げてくれた。
「もちろん、多少は歌のレッスンもしてもらうかもしれない。だけど、もちろん麗華の私生活が崩れてしまうほどのレッスンをするわけじゃないから安心して?出来る範囲で、空いている時間のなかで少しずつ練習していきましょ?ワタシだって新曲の作詞作曲をきちんと仕上げなきゃいけないんだもの。いきなり歌を仕上げるなんて無理だわ」
ふぅ、と明らかに疲れているような顔をしながら溜め息を吐いて見せるREIに申し訳ない気持ちにはなったけれど、初めて支えたいと思った友達との共同作業。
これはなんとしても成功させたいと思った。
「……えっと、いろいろ迷惑掛けるかもしれないけど…よろしく…」
「こちらこそ!良い曲、作っていこうね?」
少し汗ばんでいる手で恥ずかしい気持ちになったけれど、REIに握手を求められて誰が拒否することが出来るだろうか。
軽く、程よい力加減で握手を交わした手元を暫く眺めてから改めてREIの顔を見ると同年代とは思えないほど幼い顔をして笑っていた。
まるで、新しい玩具でも買ってもらえた子どものように。
「よーっし!これから忙しくなるわよ!」
「えっと、作詞とか作曲もREIがやってるんだよね?…まだ全然進んでないの?」
「うーん、半分ぐらいってところかな…。特に作曲のほうがなかなか進まなかったんだけど、これでようやく手を付けられそう!」
ここは、素直に喜んでおいても良いだろうか?
「それって…私がデュエットすることに応じたから…?」
「もちろん!それもあるけれど、麗華の歌を初めて聴いて感動したってのもあるかな。ホント素敵だったもの!今まで素人である意味良かったかもしれない。どこかでスカウトされてたら一緒に歌えなかったでしょ?」
今まで地味生活ばかり過ごしてきた私にスカウトする人物なんてあらわれる可能性はゼロだと思ったけれど、そこは言葉を飲み込んで頷き返すばかりにしておいた。
「あ。鳴宮さんからメール…」
『生で聴いたなんてずるい!なんで誘ってくれなかったの?!』
「…だってさ。やった~、ワタシ得しちゃった~!」
得、するのは絶対にこの先私のほうになるのに…。
人気歌手のREIとデュエットした素人だなんて絶対にインターネット上で叩かれそう…。今からある程度叩かれることには覚悟しておかなければならないかもしれないなぁ…。
「あ、そうそう。麗華。自分で言うほど音痴ってわけでも無かったから安心して?音が外れてたってのは…そう、ビブラートとかが酷く掛かってたから外れて聞こえてたって感じ」
いや、その前にビブラートを掛けて歌うなんて高等技術は私には持っていないはずなんだけど…。きっと緊張していて声が震えてしまったからビブラートが掛かってしまったように聞こえてしまったんだろう。
「取り敢えず、ワタシは作詞と作曲を頑張ることにするわ!」
「うん。私も可能な限りREIの今までの曲で歌うことに慣れてみることにするよ」
「うわー…ワタシの曲で練習しちゃう?なんだか恥ずかしいなぁ…」
とにかくこれから暫くの間はお互いの持つ目標に向けて活動していかなければならなさそうだ。
ただ、REIとデュエット…。
既に歌手として活動している人がREIと歌うというなら納得だけど完全素人の私と歌うことでREIに悪い評判が立たなければ良いなとそれだけが気がかりだった。
REIとデュエットが組める!
そう考えただけで私の胸は落ち着くことなく、いつまでも弾んでいたのだが後日REIの所属している事務所から公式的な発表が出されたことに私は戸惑いを隠せずにいた。
額は軽く汗ばんできてしまったし、知らず知らずのうちに力んで拳を握っていた手のひらにはうっすら汗を掻いていた。
もちろん楽譜通りに歌えたとは思えなかった。
音だって外しまくっていたし、REIの美声と比べたら…いや、比べることそのものが失礼にあたってしまうほどの歌声だった気がする。
ただただ最後まで歌うことに精一杯で、曲のメロディーが終わったと同時に静かになるとスタジオの床にぺたんと私は座り込んでしまった。
必死になって歌うということはこんなに疲れることだっただろうか?そう考えるとREIの音楽活動というものはとても根性が必要なものだと思えた。
パチパチパチ。
これは手を叩いている音だ。
一体どこから…?と思って顔を上げて音が発している方向に視線を向けると音響機器の傍に立っているREIが拍手をしていた。
「…っ…ご、ごめんね?やっぱり音痴で…」
「そんなことないよ!凄く…なんて言ったら良いのか分からないけど、胸が熱くなった!だから感動しちゃったよ~!」
聞き間違い、見間違いでなければ良いのだがREIの瞳はうるうると潤んでいたし、声も少しばかり震えているように聞こえた。
私の歌声で感動…?
まさか、そんなこと。
信じられなかった。
地味で、学校では虐めに遭っているような私の歌声で感動するなんて…どこに感動する要素があるのか疑問だった。
「やっぱりワタシ、麗華とデュエットしたい!麗華の声を聴いて本当にそう思ったの!」
「え、でも…」
「ごめんね?実は内緒で麗華の歌声録画しちゃった。それはリアルタイムで事務所のスタッフさんや鳴宮さんにも聴こえるように繋げてあったの。ごめん…勝手なことして。確かに音は外していたし、素人の歌だったけれど、歌声はこう…ぎゅっと胸元を抑えたくなるような…そんな感じがしたの!」
何やら音響機器を弄っているなぁと思っていたけれど、まさかリアルタイムで私の歌声が事務所内で披露されていたなんて恥ずかしい!
「だ、駄目!やっぱり駄目だよ!私なんかとデュエットなんて勿体無い!REIはもっと凄い人とデュエットしたほうが良いよ!」
「…その凄い人って…麗華はどんな人のことを言うの?ワタシは、素直に麗華の歌声が凄いと思う」
「だって、私は地味だし…虐められてるし…」
「関係ないわ」
私があれこれと理由を返す前にピシリとREIの一言によって返す言葉を続けることが出来なくなってしまった。
「地味、虐められている生活…それは歌には関係無いと思う。地味だから歌っちゃ駄目?虐められているから歌う権利も無い?そんなこと無いでしょ」
私は地味や虐めに遭っていることでどこかで逃げる口実を作ってしまっていたのかもしれない。
「……本当に、私なんかで…良い、の…?」
「うん。寧ろ、麗華じゃなきゃ駄目なの」
未だに床に座り込んだままの私と視線の位置を合わせてくれるかのようにREIも床に座り込むと私の目をしっかりと見つめてははっきりと言い方を改めて告げてくれた。
「もちろん、多少は歌のレッスンもしてもらうかもしれない。だけど、もちろん麗華の私生活が崩れてしまうほどのレッスンをするわけじゃないから安心して?出来る範囲で、空いている時間のなかで少しずつ練習していきましょ?ワタシだって新曲の作詞作曲をきちんと仕上げなきゃいけないんだもの。いきなり歌を仕上げるなんて無理だわ」
ふぅ、と明らかに疲れているような顔をしながら溜め息を吐いて見せるREIに申し訳ない気持ちにはなったけれど、初めて支えたいと思った友達との共同作業。
これはなんとしても成功させたいと思った。
「……えっと、いろいろ迷惑掛けるかもしれないけど…よろしく…」
「こちらこそ!良い曲、作っていこうね?」
少し汗ばんでいる手で恥ずかしい気持ちになったけれど、REIに握手を求められて誰が拒否することが出来るだろうか。
軽く、程よい力加減で握手を交わした手元を暫く眺めてから改めてREIの顔を見ると同年代とは思えないほど幼い顔をして笑っていた。
まるで、新しい玩具でも買ってもらえた子どものように。
「よーっし!これから忙しくなるわよ!」
「えっと、作詞とか作曲もREIがやってるんだよね?…まだ全然進んでないの?」
「うーん、半分ぐらいってところかな…。特に作曲のほうがなかなか進まなかったんだけど、これでようやく手を付けられそう!」
ここは、素直に喜んでおいても良いだろうか?
「それって…私がデュエットすることに応じたから…?」
「もちろん!それもあるけれど、麗華の歌を初めて聴いて感動したってのもあるかな。ホント素敵だったもの!今まで素人である意味良かったかもしれない。どこかでスカウトされてたら一緒に歌えなかったでしょ?」
今まで地味生活ばかり過ごしてきた私にスカウトする人物なんてあらわれる可能性はゼロだと思ったけれど、そこは言葉を飲み込んで頷き返すばかりにしておいた。
「あ。鳴宮さんからメール…」
『生で聴いたなんてずるい!なんで誘ってくれなかったの?!』
「…だってさ。やった~、ワタシ得しちゃった~!」
得、するのは絶対にこの先私のほうになるのに…。
人気歌手のREIとデュエットした素人だなんて絶対にインターネット上で叩かれそう…。今からある程度叩かれることには覚悟しておかなければならないかもしれないなぁ…。
「あ、そうそう。麗華。自分で言うほど音痴ってわけでも無かったから安心して?音が外れてたってのは…そう、ビブラートとかが酷く掛かってたから外れて聞こえてたって感じ」
いや、その前にビブラートを掛けて歌うなんて高等技術は私には持っていないはずなんだけど…。きっと緊張していて声が震えてしまったからビブラートが掛かってしまったように聞こえてしまったんだろう。
「取り敢えず、ワタシは作詞と作曲を頑張ることにするわ!」
「うん。私も可能な限りREIの今までの曲で歌うことに慣れてみることにするよ」
「うわー…ワタシの曲で練習しちゃう?なんだか恥ずかしいなぁ…」
とにかくこれから暫くの間はお互いの持つ目標に向けて活動していかなければならなさそうだ。
ただ、REIとデュエット…。
既に歌手として活動している人がREIと歌うというなら納得だけど完全素人の私と歌うことでREIに悪い評判が立たなければ良いなとそれだけが気がかりだった。
REIとデュエットが組める!
そう考えただけで私の胸は落ち着くことなく、いつまでも弾んでいたのだが後日REIの所属している事務所から公式的な発表が出されたことに私は戸惑いを隠せずにいた。