光のワタシと影の私
決断
REIに聞いてみると事務所宛てに送られてきた封筒やメールは数え切れないものになったというらしい。
そりゃそうだ。巷で人気の歌手、REIと一緒に歌うことが出来ると聞けば誰もがこぞって応募をするに決まっているだろう。
もちろん事務所のスタッフさんたちは写真を目にして即この子は論外、少しでも良いと思う子がいれば傍らに置いていくもののプロフィールなどに再度目を通していきREIにはふさわしくないと判断すれば即ゴミ箱入りとなってしまうそうだ。
そこにはもちろん事務所で働いている鳴宮さんも同じ作業の繰り返しで、メールに送られてきた一人一人の写真を眺めてみては小さく溜め息を溢しつつ削除…といった行動を続けていた。
「…お姉ちゃん…そんなことしなくても、ワタシが一緒に歌いたい子は決まってるじゃない」
パソコンの傍で働いている鳴宮さんに近寄っていくREIは他のスタッフたちの迷惑にならないように声を掛けていった。
「…えぇ、そうね。あなたが決めた子だもの。私たちとしても異論は無いわよ?それでもこれだけ応募されてきたら…どうにかしないといけないでしょう?」
「う…っ。だいたい!社長はなんでいきなりこんな…。オーディションをするなんてワタシも聞いていません!」
REIもどうやら鳴宮さん自身も聞いていなかった話しらしく疑問を浮かべながら鳴宮さんはメールの後始末を続けていた。
「社長も気まぐれなところがあるからねぇ…。もしも…もしも麗華よりもあなたにふさわしい子が見つかるようなことがあれば面接ぐらいさせてあげても良いんじゃないかしら?」
「そんな!だってワタシは麗華と組みたいの!」
「そんな我が儘言わない!…別にこういうオーディションは今に始まったことじゃないの。あなたがデビューし始めてからもあなたの知らないところで自分をREIとデュエットさせてください!って殴り込んでくるぐらいの勢いで事務所に入ってきたギターリストもいたのよ?あなたには秘密にしていたけど…。それぐらいあなたは世間において人気があるってこと。性別や年齢なんて関係なく、それこそ世界中あちこちからファンメールだって届くわ」
「…ファンメール…」
「あなたのブログにも最初は放ったらかしにしておいたけれど、あなたに執着するほどのメッセージを付けていくファンが現れたから慌ててコッチで規制をかけて少しでも危険だと思われるユーザーからのメッセージは受付ないように仕組んだの」
「え、そんなこと出来たんですか?」
「もっちろん。長いこと、こういう事務所に携わってると…そういった技術も付いてくるのよ」
「と、とにかく!オーディション!面接とかやるならワタシにも是非参加させてください!」
「え、あなたも?」
「ワタシのパートナーになる人を選抜するんですよね?だったらメインのワタシがいなきゃ始まらないじゃないですか!」
ここのところあまり寝ていないのか鳴宮さんの目元にはうっすらと隈が出来ており、REIも今回のオーディションという企画に満足に作詞や作曲に勤しんでいる時間は無いらしい。
歌手やアイドルが自ら望んで新メンバーの募集をするのは聞いたことがあるけれど、まさか事務所のスタッフにも内緒にして社長が独断でメンバーを募集、オーディションを告知するなんて聞いたことがない。
鳴宮さんは大丈夫だろうか?
REIも…。
最近、REIと交わすメールの数もどんどん減っていって気がする。作詞や作曲で忙しいのだろうか?ううん、たぶん違う。今回のオーディションのことで四苦八苦しているに違いない。
オーディション会場にはきっとREI本人も審査員になって応募者たちを判断していくだろう。
もちろん私はそんなオーディションに応募する気は無い。だってREIから言われたから。
REIは私を選んでくれた。私でなければ駄目だ、と。だから私は私の出来ることを精一杯するだけだ。
REIの音源を使ってカラオケの練習をしてみたものの歌うということはかなり疲れる。一曲歌い終わる頃にはゼイゼィと息を上げてしまって立っているのさえ難しくなってしまった。
まずは、歌唱力よりも体力を付けなければ!
『REI!お疲れ様!きっと、応募者がいっぱいでREIも疲れてるよね?どんまい!私も頑張って今は体力作りをしているよ!お互い頑張ろう!』
そんなメールを送るとジャージに身を包んで夕方から夜になるまで家の近所を軽いマラソンをすることで少しでも体力を上げることに専念していった。
歌唱力はプロのREIに聞けばどうにでもなるけれど、体力自体は誰に聞くまでもなく自分で身に付けていかなければならない。
正直運動の類は苦手、少し走るだけですぐに息が上がってしまうけれど、それでもREIと一緒に歌って恥ずかしくないように体力作りに勤しむことにした。
もうすぐ書類審査という一次審査は終了するはずだ。
そこで万が一にでも通過することが出来た人がいたら二次審査という面接に呼ばれることになっていく。あちこちから応募が殺到したなかでいったいどれほどの人数が二次審査に呼ばれるのだろうか。
REIにちょっと二次審査について聞いてみたことがあったけれど、そこでは軽い質問応答とアカペラを披露するらしい。
質問や応答であればよほどの人見知りでなければ可能かもしれないが、アカペラでの歌唱というものをどれほどの人が経験してきているだろう。きっと割合としては少ないはずだ。そこで万が一にでも通過した人物がREIとユニットを組むことになるのだが…私の居場所はそこにちゃんと残るのだろうか?
それが不安だった。
もしもREIの隣りに立つことに選ばれなかったら…私はまた居場所を失うことになってしまう。
そんな不安でいっぱいいっぱいだったときに一通のメールが届いた。
REIからのものだった。
『麗華!心配しないで!一応、名目上はオーディションを開催する形になっちゃうけど、誰も合格させる気は無いから!ワタシはREIに決めたんだから!変なことで不安になんかならないでよ?!』
それは、まるで私の心を見透かせられているような内容のメールだった。
自信満々というわけじゃないけれど、やっぱり世の中には可愛い子、歌が上手い子がいるわけで、私よりもっとREIの隣りにふさわしい子はいるだろう。
それでもREIは私に決めてくれた。
だったら私は自分に出来ることをするだけだ、というつもりで本日のランニングに家を出て行った。
そりゃそうだ。巷で人気の歌手、REIと一緒に歌うことが出来ると聞けば誰もがこぞって応募をするに決まっているだろう。
もちろん事務所のスタッフさんたちは写真を目にして即この子は論外、少しでも良いと思う子がいれば傍らに置いていくもののプロフィールなどに再度目を通していきREIにはふさわしくないと判断すれば即ゴミ箱入りとなってしまうそうだ。
そこにはもちろん事務所で働いている鳴宮さんも同じ作業の繰り返しで、メールに送られてきた一人一人の写真を眺めてみては小さく溜め息を溢しつつ削除…といった行動を続けていた。
「…お姉ちゃん…そんなことしなくても、ワタシが一緒に歌いたい子は決まってるじゃない」
パソコンの傍で働いている鳴宮さんに近寄っていくREIは他のスタッフたちの迷惑にならないように声を掛けていった。
「…えぇ、そうね。あなたが決めた子だもの。私たちとしても異論は無いわよ?それでもこれだけ応募されてきたら…どうにかしないといけないでしょう?」
「う…っ。だいたい!社長はなんでいきなりこんな…。オーディションをするなんてワタシも聞いていません!」
REIもどうやら鳴宮さん自身も聞いていなかった話しらしく疑問を浮かべながら鳴宮さんはメールの後始末を続けていた。
「社長も気まぐれなところがあるからねぇ…。もしも…もしも麗華よりもあなたにふさわしい子が見つかるようなことがあれば面接ぐらいさせてあげても良いんじゃないかしら?」
「そんな!だってワタシは麗華と組みたいの!」
「そんな我が儘言わない!…別にこういうオーディションは今に始まったことじゃないの。あなたがデビューし始めてからもあなたの知らないところで自分をREIとデュエットさせてください!って殴り込んでくるぐらいの勢いで事務所に入ってきたギターリストもいたのよ?あなたには秘密にしていたけど…。それぐらいあなたは世間において人気があるってこと。性別や年齢なんて関係なく、それこそ世界中あちこちからファンメールだって届くわ」
「…ファンメール…」
「あなたのブログにも最初は放ったらかしにしておいたけれど、あなたに執着するほどのメッセージを付けていくファンが現れたから慌ててコッチで規制をかけて少しでも危険だと思われるユーザーからのメッセージは受付ないように仕組んだの」
「え、そんなこと出来たんですか?」
「もっちろん。長いこと、こういう事務所に携わってると…そういった技術も付いてくるのよ」
「と、とにかく!オーディション!面接とかやるならワタシにも是非参加させてください!」
「え、あなたも?」
「ワタシのパートナーになる人を選抜するんですよね?だったらメインのワタシがいなきゃ始まらないじゃないですか!」
ここのところあまり寝ていないのか鳴宮さんの目元にはうっすらと隈が出来ており、REIも今回のオーディションという企画に満足に作詞や作曲に勤しんでいる時間は無いらしい。
歌手やアイドルが自ら望んで新メンバーの募集をするのは聞いたことがあるけれど、まさか事務所のスタッフにも内緒にして社長が独断でメンバーを募集、オーディションを告知するなんて聞いたことがない。
鳴宮さんは大丈夫だろうか?
REIも…。
最近、REIと交わすメールの数もどんどん減っていって気がする。作詞や作曲で忙しいのだろうか?ううん、たぶん違う。今回のオーディションのことで四苦八苦しているに違いない。
オーディション会場にはきっとREI本人も審査員になって応募者たちを判断していくだろう。
もちろん私はそんなオーディションに応募する気は無い。だってREIから言われたから。
REIは私を選んでくれた。私でなければ駄目だ、と。だから私は私の出来ることを精一杯するだけだ。
REIの音源を使ってカラオケの練習をしてみたものの歌うということはかなり疲れる。一曲歌い終わる頃にはゼイゼィと息を上げてしまって立っているのさえ難しくなってしまった。
まずは、歌唱力よりも体力を付けなければ!
『REI!お疲れ様!きっと、応募者がいっぱいでREIも疲れてるよね?どんまい!私も頑張って今は体力作りをしているよ!お互い頑張ろう!』
そんなメールを送るとジャージに身を包んで夕方から夜になるまで家の近所を軽いマラソンをすることで少しでも体力を上げることに専念していった。
歌唱力はプロのREIに聞けばどうにでもなるけれど、体力自体は誰に聞くまでもなく自分で身に付けていかなければならない。
正直運動の類は苦手、少し走るだけですぐに息が上がってしまうけれど、それでもREIと一緒に歌って恥ずかしくないように体力作りに勤しむことにした。
もうすぐ書類審査という一次審査は終了するはずだ。
そこで万が一にでも通過することが出来た人がいたら二次審査という面接に呼ばれることになっていく。あちこちから応募が殺到したなかでいったいどれほどの人数が二次審査に呼ばれるのだろうか。
REIにちょっと二次審査について聞いてみたことがあったけれど、そこでは軽い質問応答とアカペラを披露するらしい。
質問や応答であればよほどの人見知りでなければ可能かもしれないが、アカペラでの歌唱というものをどれほどの人が経験してきているだろう。きっと割合としては少ないはずだ。そこで万が一にでも通過した人物がREIとユニットを組むことになるのだが…私の居場所はそこにちゃんと残るのだろうか?
それが不安だった。
もしもREIの隣りに立つことに選ばれなかったら…私はまた居場所を失うことになってしまう。
そんな不安でいっぱいいっぱいだったときに一通のメールが届いた。
REIからのものだった。
『麗華!心配しないで!一応、名目上はオーディションを開催する形になっちゃうけど、誰も合格させる気は無いから!ワタシはREIに決めたんだから!変なことで不安になんかならないでよ?!』
それは、まるで私の心を見透かせられているような内容のメールだった。
自信満々というわけじゃないけれど、やっぱり世の中には可愛い子、歌が上手い子がいるわけで、私よりもっとREIの隣りにふさわしい子はいるだろう。
それでもREIは私に決めてくれた。
だったら私は自分に出来ることをするだけだ、というつもりで本日のランニングに家を出て行った。