光のワタシと影の私
Sloth~怠惰~
新曲のお披露目、ファンの人たちを目の前にして歌を歌うというイベントを過ぎてから不思議とREIの曲作りが遅くなってきたような気がする。
曲を作ることもとても難しいものだし、作詞も作曲も一人で手掛けていたらそれはとてつもない時間が必要となるだろう。
ただ、前回新曲のCDを販売してからもうかれこれ数ヶ月が経っていた。
その間、REIが「新曲が出来たよー!」といったメールを一通も受けてはいない。
REIは忙しいのだろうか?
また、悩みなどで一人で抱え込んでいなければ良いのだが…そのためのパートナーという存在だろう。
でも、いくら私がREIの携帯に電話をしようともメールを送ろうともREIからはなんの音沙汰も無いままだった。
さすがに音沙汰まで無いとなると心配になった私は学校が休日になるのを待ち、昼間から事務所へと向かっていった。
世間では休日、各々趣味や家庭と時間を満喫しているのかもしれないが、ここは一応芸能事務所だ。個人的にボイストレーニングをおこなうために部屋を貸すための鍵の管理もきちんとしなければならないし、何かあったときの連絡要員として事務所のなかには数人ほどのスタッフが机に向かって仕事をしていた。
ちょうど通り掛かったスタッフの一人に「今、REIはどうしているのか?」と尋ねてみると一瞬渋い顔をしてみせてから苦笑いを浮かべてた。
「う~ん…。なかなか新曲作りが進まないらしくてね…。今まで凄すぎるぐらいに次から次へと新曲を出していたのが不思議なぐらいだったから今ぐらいがちょうど良いのかもしれないけれど…さすがに連絡も取れないほどに曲作りに没頭ってするものだと思う?」
いや、それはこちらが聞きたいところなんですが…。
「REIは事務所には来ていないんですか?」
「あぁ、もう大分来ていないな…。逆に来る日のほうが珍しくなってきているぐらいだよ」
「そうですか…引き止めてしまってすみません。ありがとうございました!」
まだ仕事が残っているはずなのに話しをするために引き止めてしまったことを悪く思い謝罪とお礼とを告げれば事務所にREIがいないとなるとやはり自宅で曲作りに没頭しているのだろう。
ただ、私はREIの自宅の居場所が分からなかった。
知らない人ではないし、ユニットを組んだ相棒なのだからスタッフの人に聞いてもらえば自宅の住所ぐらい教えてくれそうなものかもしれないが、そこはなんだか申し訳ない気がした。
「う~ん…。どうしようかな…」
「…麗華…?あなたどうしたの?何か事務所に用でもあったかしら?」
「あ、お姉ちゃん…。REIがもしかしたら事務所にいるかもしれないって思って来てみたんだけど、やっぱりいないみたいでどうしようかなって思ってたところ」
「REIに?あー…あの子、最近電話にもメールにも反応無いのよね…。具合が悪いときにも何かしら連絡はしてくれていたし…」
「…お姉ちゃんなら知ってる?REIの住所」
「もちろん知ってるけど…様子、見に行くつもり?」
「うん。私たちパートナーだし…何か心配事があるなら力になってあげたいし…」
「……分かったわ。何かあるようだったら私に連絡してくれる?」
やっぱりこういうとき事務所に働いている姉のコネを使ってしまうのは申し訳ないけれど他にどうすれば良いのか分からなかった。
教えてくれた住所は事務所にそこそこ近い場所の一軒家。
家もそこそこ大きいものだからもしかしたらREIの家庭は恵まれているのかもしれない。…金銭的にも。
一瞬躊躇しながらも、思い切ってインターフォンを鳴らせば家の中の様子を待った。
これでREIが家のなかにいるならばREIが出て来てくれるはずだし、いなければ仕方ないけれど帰るしかないだろう。
『…どちらさま、ですか…?』
間違い無い、これはREIの声だ。
良かった。
家にいたんだ、と安心したもののどうにも聞こえてきた声にはREIらしい覇気のある声色とはかけ離れているように聞こえた。
「えっと、麗華だけど…」
『あ、うん…ごめん、今開けるね』
カチャとドアの鍵が開けられる小さな音がしたかと思うとゆっくりと開かれたドアの隙間から酷く疲れきった姿のREIがそこにいた。
いや、誤解。
疲れているものとはちょっと違う。
酷く、ダラけた生活をしているような…あんなに必死に曲作りをして、歌うことが大好きなREIがそこにはいないような気がした。
「…REI、何かあったの?」
「…別に…ただ、新曲のアイディアがなかなか思い浮かばなくて…」
「それだけじゃないよね?みんなからの電話やメールにも全然応えてくれないって困ってたよ?心配もしてたんだから」
「ご、ごめん…」
まるで私とREIの日頃の立場が逆転してしまったような気がした。
積極的で、熱意があるREIがすっかりネガティブ思考で落ち込みやすい過去の私のように見えてしまった。
「…曲作り、大変なら大変で良いじゃない?ただでさえREIの場合は一人で作ってるんだから大変なのは当たり前だよ。でも、連絡ぐらいしてくれないと…何かあったんじゃないかって心配になっちゃう…」
「イベントの…この前のイベントをやり終えてから、少し疲れた気がして暫くは音楽とはかけ離れた普通の生活をしてきたらすっかりその生活に馴染んじゃって、どうやって曲を作れば良いのか分からなくなっちゃったの…」
一度怠ける生活に陥ってしまったり、楽な生活を味わってしまうとそこから抜け出すことができずに怠け続けてしまうという…そういうことだろうか?
今のREIの様子を見ていれば一目瞭然。
やる気、熱気、覇気、陽気、といった+の気持ちがこんな近くにいるのに感じられないのだ。
「…せっかくだし、上がって?お茶でも淹れるから」
「…あ、うん…じゃあ…お邪魔します…」
何がREIを変えてしまったのか?
イベントがきっかけらしいが、やはり悩むところがあったのだろう。
吐き出しきれない何かがREIの心身を怠けさせることになったのかもしれない。
それを解消させるために私は、REIの自宅に上がっていった。
曲を作ることもとても難しいものだし、作詞も作曲も一人で手掛けていたらそれはとてつもない時間が必要となるだろう。
ただ、前回新曲のCDを販売してからもうかれこれ数ヶ月が経っていた。
その間、REIが「新曲が出来たよー!」といったメールを一通も受けてはいない。
REIは忙しいのだろうか?
また、悩みなどで一人で抱え込んでいなければ良いのだが…そのためのパートナーという存在だろう。
でも、いくら私がREIの携帯に電話をしようともメールを送ろうともREIからはなんの音沙汰も無いままだった。
さすがに音沙汰まで無いとなると心配になった私は学校が休日になるのを待ち、昼間から事務所へと向かっていった。
世間では休日、各々趣味や家庭と時間を満喫しているのかもしれないが、ここは一応芸能事務所だ。個人的にボイストレーニングをおこなうために部屋を貸すための鍵の管理もきちんとしなければならないし、何かあったときの連絡要員として事務所のなかには数人ほどのスタッフが机に向かって仕事をしていた。
ちょうど通り掛かったスタッフの一人に「今、REIはどうしているのか?」と尋ねてみると一瞬渋い顔をしてみせてから苦笑いを浮かべてた。
「う~ん…。なかなか新曲作りが進まないらしくてね…。今まで凄すぎるぐらいに次から次へと新曲を出していたのが不思議なぐらいだったから今ぐらいがちょうど良いのかもしれないけれど…さすがに連絡も取れないほどに曲作りに没頭ってするものだと思う?」
いや、それはこちらが聞きたいところなんですが…。
「REIは事務所には来ていないんですか?」
「あぁ、もう大分来ていないな…。逆に来る日のほうが珍しくなってきているぐらいだよ」
「そうですか…引き止めてしまってすみません。ありがとうございました!」
まだ仕事が残っているはずなのに話しをするために引き止めてしまったことを悪く思い謝罪とお礼とを告げれば事務所にREIがいないとなるとやはり自宅で曲作りに没頭しているのだろう。
ただ、私はREIの自宅の居場所が分からなかった。
知らない人ではないし、ユニットを組んだ相棒なのだからスタッフの人に聞いてもらえば自宅の住所ぐらい教えてくれそうなものかもしれないが、そこはなんだか申し訳ない気がした。
「う~ん…。どうしようかな…」
「…麗華…?あなたどうしたの?何か事務所に用でもあったかしら?」
「あ、お姉ちゃん…。REIがもしかしたら事務所にいるかもしれないって思って来てみたんだけど、やっぱりいないみたいでどうしようかなって思ってたところ」
「REIに?あー…あの子、最近電話にもメールにも反応無いのよね…。具合が悪いときにも何かしら連絡はしてくれていたし…」
「…お姉ちゃんなら知ってる?REIの住所」
「もちろん知ってるけど…様子、見に行くつもり?」
「うん。私たちパートナーだし…何か心配事があるなら力になってあげたいし…」
「……分かったわ。何かあるようだったら私に連絡してくれる?」
やっぱりこういうとき事務所に働いている姉のコネを使ってしまうのは申し訳ないけれど他にどうすれば良いのか分からなかった。
教えてくれた住所は事務所にそこそこ近い場所の一軒家。
家もそこそこ大きいものだからもしかしたらREIの家庭は恵まれているのかもしれない。…金銭的にも。
一瞬躊躇しながらも、思い切ってインターフォンを鳴らせば家の中の様子を待った。
これでREIが家のなかにいるならばREIが出て来てくれるはずだし、いなければ仕方ないけれど帰るしかないだろう。
『…どちらさま、ですか…?』
間違い無い、これはREIの声だ。
良かった。
家にいたんだ、と安心したもののどうにも聞こえてきた声にはREIらしい覇気のある声色とはかけ離れているように聞こえた。
「えっと、麗華だけど…」
『あ、うん…ごめん、今開けるね』
カチャとドアの鍵が開けられる小さな音がしたかと思うとゆっくりと開かれたドアの隙間から酷く疲れきった姿のREIがそこにいた。
いや、誤解。
疲れているものとはちょっと違う。
酷く、ダラけた生活をしているような…あんなに必死に曲作りをして、歌うことが大好きなREIがそこにはいないような気がした。
「…REI、何かあったの?」
「…別に…ただ、新曲のアイディアがなかなか思い浮かばなくて…」
「それだけじゃないよね?みんなからの電話やメールにも全然応えてくれないって困ってたよ?心配もしてたんだから」
「ご、ごめん…」
まるで私とREIの日頃の立場が逆転してしまったような気がした。
積極的で、熱意があるREIがすっかりネガティブ思考で落ち込みやすい過去の私のように見えてしまった。
「…曲作り、大変なら大変で良いじゃない?ただでさえREIの場合は一人で作ってるんだから大変なのは当たり前だよ。でも、連絡ぐらいしてくれないと…何かあったんじゃないかって心配になっちゃう…」
「イベントの…この前のイベントをやり終えてから、少し疲れた気がして暫くは音楽とはかけ離れた普通の生活をしてきたらすっかりその生活に馴染んじゃって、どうやって曲を作れば良いのか分からなくなっちゃったの…」
一度怠ける生活に陥ってしまったり、楽な生活を味わってしまうとそこから抜け出すことができずに怠け続けてしまうという…そういうことだろうか?
今のREIの様子を見ていれば一目瞭然。
やる気、熱気、覇気、陽気、といった+の気持ちがこんな近くにいるのに感じられないのだ。
「…せっかくだし、上がって?お茶でも淹れるから」
「…あ、うん…じゃあ…お邪魔します…」
何がREIを変えてしまったのか?
イベントがきっかけらしいが、やはり悩むところがあったのだろう。
吐き出しきれない何かがREIの心身を怠けさせることになったのかもしれない。
それを解消させるために私は、REIの自宅に上がっていった。