そのキス試用期間につき…!?
それから少し眠ってしまっていたのか、部屋のドアをノックする音で目が覚めた。
秋穂が帰ってきたと思ったが、どうやら違うらしい。
「秋穂、開けるよ」
(え!?ちょ、待って___…!)
声を発するより先に無情にもドアは開いて、その奥に立つ整った顔立ちの男性と目が合った。
「え?あれ、え、誰?」
「怪しい者じゃないんです!私、秋穂の……!」
友達で、と続けようとした時部屋全体が真っ暗になった。
パニックになる私とは対照的な秋穂兄は冷静だった。
「停電だね。あー、で。秋穂の友達だよね。秋穂は?」
「あっ、まだ、帰ってきてないです。」
「そっか、ありがとね。」
その言葉と同時に足音が遠ざかっていく。
「あ、の……っ!!」
「ん、なに?」
「この部屋にいてもらえないでしょうか…っ!」
「え」
「あの、私、暗所恐怖症で…。」
続ける言葉を見つけられないでいると、こっちに戻ってきてくれる。
暗くて見えないけど、きっとドアの近くにいてくれているんだろう。
「停電、長いですね。」
「そうだね。雪のせいかも。」
この会話を最後に押し黙ったままでいるとかれこれ十分は経ってしまっていた。
「あの、だいぶ落ち着きましたし、もうじき治ると思うので大丈夫ですよ。」
「そっか。…じゃあ、またヤバそうだったら呼んでね?」
ありがとうございます、と返すと部屋に戻っていった。
それから、さらに時間が経った。
こんなに長く続くものだとは思っていなくて、自分の体に異変が出始める。
(あ、息、できな、)
ひゅうひゅう、と喉の音に焦る。
真っ暗な中でどうすることも出来なくなる。
目がかすみ始めた時、あったかい腕に抱き寄せられた。
「…ごめん。」
なにが、と思ったとき唇に何かが触れた。