君の嘘を知らなくて(仮題)









『幸恵が病んでいることを、知っているかね』


『……はい』


『キミに頼みがある。
真幸が生きていると、幸恵の前で演技をしてほしい』


『……幸恵さんに嘘をつけって言うんですか』





俺の声に、テーブルの上に乗ったアイスコーヒーの氷がカランと音を立てた。




『幸恵を守るための嘘だ。
真幸の彼氏だったキミにしか、出来ないことだ』


『……僕は…!』


『キミは、真幸を愛していたのだろう。
キミだって、真幸の死を受け入れていないのだろう?』




俺の体が無意識にビクッと震えた。




『“真幸が生きていれば”、万事解決なのだよ。
成績の良いキミなら、わかってくれるだろう』


『真幸が、生きていれば……』


『真幸は死んでない。生きているんだよ』




俺は

―――嘘をつくことに決めた。






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