君の嘘を知らなくて(仮題)








『幸恵さん、こんにちは』


『あら桜太くんいらっしゃい。
真幸とデートかしら?』


『はい、迎えに来ました。
今日は僕たちの付き合った日ですから』


『あなたみたいな人がいて嬉しいわぁ。
真幸、桜太くんよ。早く準備しなさい』




誰もいない空間に向かって喋り、

誰もいない席にご飯を置き、

誰もいない場所に向かって微笑む幸恵さん。





『似合っているでしょう桜太くん。
真幸ってば今日のために新しく服を買ったのよ』


『綺麗だよ真幸、似合ってる』




誰もいない。

俺に真幸が見えない。




『行ってらっしゃい桜太くん、真幸』


『行ってきますね幸恵さん』


『そうだわ。
今日夕食一緒に食べない?
真幸もきっと喜ぶはずだわ』


『ええ、そうさせていただきます。
真幸、今日は一緒に夕食食べような?』





俺は手を伸ばし、空気を掴む。

そして1人きりで、真幸とよくデートした場所に向かい、

一緒に“真幸”を交え幸恵さんの夕食を食べた。







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