君の嘘を知らなくて(仮題)
「……ね、お願い。
今だけで良いから。
あたしを真幸さんだと思って、抱きしめて」
ギョッと目を見開く桜太。
あたしは涙でグシャグシャであろう顔を上げ、桜太の首に手を回した。
「……アヤメ…お前……」
「知ったよ、あたし。
真幸さんが事故で亡くなっていること」
「……」
「どうして、そんなに過去にこだわるの!」
「……!」
桜太の息を飲む音が聞こえる。
「……どうして?
どうして桜太も幸恵さんも、前を向かないの?
過去ばかり囚われないでよ……」
真幸さんのことは、いつまでも覚えて、好きでいても良い。
だからと言って過去に囚われ続けているのは、間違っている。
「桜太」
あたしは呼びかける。
真幸さんじゃない、あたしが。
「……あたし
桜太のことが、好きかもしれない」