君の嘘を知らなくて(仮題)
家に帰ると、兄貴と椿さんは怒らず、無事に帰ってきたことにほっとしているようだ。
アヤメは俺が倉田胡桃に電話したことをやけに気にしていた。
だけどそのことは一切口に出さなかった。
「桜太、良い?」
アヤメが風呂に入っている時。
部屋で何も考えずベッドに横になっていると、兄貴がやってきた。
「兄貴……何の用?」
「幸恵さんが、入院したって」
「……は?」
「元々あの人病気だったでしょ。
それが少し悪化したらしいよ。
おじさんがわざわざ電話してきてくれた」
「……幸恵さん、変わってねぇの?」
「ないらしいよ。
まだ真幸ちゃんが生きているって思っているらしいよ」
「……アイツが、可哀想だな」
ポツリと呟くと、兄貴は聞こえなかったらしく「ん?」と聞き返してきた。
だけど俺は「何でもない」と首を振った。