君の嘘を知らなくて(仮題)
自然と廊下を歩く、あたしたちを含めた生徒の視線が、女子と集団に向かう。
「謝ったぐらいで済まされると思ってんのか?あ゛?」
「ごめんなさい……」
震えた声を絞るように出す女子。
明らかにお怒りムードの不良男子。
多分…ぶつかったとかそういう、ベタなことがあったんだと思う。
「ふざけんなよ?てめぇ」
1番中央に立っている、リーダー的存在の男子が、女子の下で結んでいる黒髪を引っ張る。
女子はもう涙目で、いつ泣き出しても可笑しくない。
「アヤメ……」
隣の胡桃が不安そうな声を出す。
あたしの性格を知っているから。
女子に意地悪する男子は許せないっていう性格を。
「胡桃、持ってて」
あたしは筆箱と教科書を胡桃に渡す。
「アヤメ、止めておいた方が良いよ…。
絶対アヤメじゃ敵わないって」
「だからと言って放っておけないよ」
あたしの筆箱と教科書を受け取った胡桃に頷き、
あたしは泣き出した女子の隣に並んだ。