君の嘘を知らなくて(仮題)









「自然に人が寄ってくるから、追いかけたことなんてないでしょ。
大事な人を」


「……追いかけたこと…」





確かに俺は…追いかけたことなどなかった。

向こうが行ってしまったら…そのまま。

追いかけたことなんて、1度もなかった。





「知らないうちに、手放してしまうかもしれないわよ。
傍にいるうちに、離さないようにしておきなさい。

後悔するわよ」





傍にいる、うちに。

椿さんの言葉がやけに頭が響く。




「……わかりました。
気を付けようと、思います」




今は何が大事で、何を手放したくないか、よくわからないけど。

いつか役立つかもしれない、と覚えておくことにした。




「それじゃ、アヤメのこと起こしてきてくれる?」


「……わかりました」




俺は頷いて、部屋に戻った。






< 207 / 248 >

この作品をシェア

pagetop