君の嘘を知らなくて(仮題)
「自然に人が寄ってくるから、追いかけたことなんてないでしょ。
大事な人を」
「……追いかけたこと…」
確かに俺は…追いかけたことなどなかった。
向こうが行ってしまったら…そのまま。
追いかけたことなんて、1度もなかった。
「知らないうちに、手放してしまうかもしれないわよ。
傍にいるうちに、離さないようにしておきなさい。
後悔するわよ」
傍にいる、うちに。
椿さんの言葉がやけに頭が響く。
「……わかりました。
気を付けようと、思います」
今は何が大事で、何を手放したくないか、よくわからないけど。
いつか役立つかもしれない、と覚えておくことにした。
「それじゃ、アヤメのこと起こしてきてくれる?」
「……わかりました」
俺は頷いて、部屋に戻った。