君の嘘を知らなくて(仮題)
扉を開けると、眠っているアヤメの姿が目に入る。
俺はそっと上から眺めた。
あの日。
朝早く起きた俺は、ユキに会いに夕焼け公園に向かった。
するとユキが突然走り出した。
俺はユキを追いかけ、塀の上に上って見失ったユキを探した。
探していると、普段人見知りするはずのユキが、クラスメイトの河西彩愛の前にいた。
倉田胡桃に河西彩愛の名前を出された時から、要注意人物として見ていたクラスメイト。
何でユキ…ソイツの前で大人しく座っているんだ。
疑問を感じていると、俺は足を滑らせ、塀から落ちた。
運悪く、河西彩愛の上に落ちてしまった。
思わず色々言っちまったけど…。
今思えばあの頃から、きっと何かが変わっていたんだろうな。
歯車が狂ったとか……。
『あたし、桜太が好きかもしれない』
涙目でしっかり逸らさず俺を見て、
真幸に似ているアヤメの気持ちに答えられなくて断って。
『友達でいてほしい』と、今にも子どものように泣きじゃくりそうな表情だったのに、アヤメは
……笑っていた。
好き“かもしれない”でも。
俺が誰を見ているかわかりきっていても。
アヤメは、月の下綺麗に笑ったんだ。