君の嘘を知らなくて(仮題)
「……確かに、それは辛いことかもしれないわ。
だけど、忘れない方が良いわよ」
お姉ちゃんが、あたしの頭を撫でながら、教えてくれる。
「嘘じゃないその気持ちを、簡単に忘れてしまってはいけないわ」
「……お姉ちゃ…ん……」
「僕も同じ気持ちだよ、アヤメちゃん」
「風太さん……。
どうして…?
忘れた方が、良いよ。
こんな辛いまま、あたしは同居生活を続けていける自信がない…」
いつ帰ってくるかわからない、桜太と風太さんの両親。
先の見えない、突然始まった同居生活。
いつ終わるかわからないそれに、あたしは耐えて行く自信がない。
「アヤメ。
忘れるのは、辛い出来事であっても、いけないことだわ」
「どうしてっ……」
「……覚えてないんでしょうね。
アヤメが記憶を失って目覚めた時の、第一声を」
「え?」
「忘れたく、なかったよ。
例え失恋で終わった恋でも。
あの時の気持ちを、あたしは忘れたくなかった。
アヤメはそう言って、泣いていたのよ」