君の嘘を知らなくて(仮題)
ふと、脳内に“あの日”が蘇る。
記憶を失ったことは、正直覚えていない。
だけど、初めて見るような人や物に戸惑った記憶はある。
ずっと眠っていたような感覚。
パチリと目が覚めた時目に入った、知らない人。
「ここ数日の記憶がないみたいね」って笑っていたけど。
きっとそれは、両親やお姉ちゃんの嘘だったんだと思う。
なかったのは、ここ数日の記憶じゃない。
あたしは、今までの記憶を全て、勉強に関すること以外忘れていた。
あたしは自分の部屋だけど自分の部屋じゃない感覚を覚えながら。
部屋の中をウロウロ歩いて、1冊のノートを見つけた。
そこに書かれていたのは、ここ最近の日記。
<じゅぎょうちゅう
はつげんしていました。
とてもかっこ良かったです>
<バスケのしあいで、
シュートをきめていました。
やっぱり、かっこ良かったです>
<本を、よんでいました。
なんの本をよむのかな。
あたしも同じのがよみたいな>
漢字が苦手だったあたしの、たどたどしい日記。
あたしが恋をしていたことを知った。
その気持ちも忘れてしまった。
あたしはショックで泣き崩れた。