調理部なんてどうでしょう?

いつものように自分の席に座り、カバンを机の横にかけると、本を開いておとなしく朝のホームルームまで読書をする。

これは朝の私の行動パターン。私の席は窓際の後ろから2番目。割と教室のすみの、この席は私のお気に入りの席だ。

ふと、教室が一段と騒がしくなる。顔を上げて確認しなくとも、運動部が朝練から教室に上がってきたのが分かる。

間もなく私の前の席にどさりと座った男子は、当然のように後ろに振り返ってきてこう言った。

「九重、昨日出た宿題見せてよ。」

昨日は数学から宿題が出ていたから、私はきっと今日の朝も聞いてくるであろうことを予想していた。私の前の席の男子、朝茄 愁馬君は数学があのおそろしいゴキブリよりも嫌いらしい。数学の宿題が出ると、毎回次の日の朝に私に見せてほしいと頼んでくる。

「いいよ。」

返事をしながら自分のノートを朝茄君に手渡す。
手、震えてないよね。よし、大丈夫。


私は高校で誰かと親しく話すなんてこと諦めていた。しかし、この朝茄君はごく自然に地味でしかない私にも話しかけてくれる。

当然、きっと朝茄君にとっては何も意識せず、ごく普通にクラスメートと話す感覚で私に接してくれているんだろうけど、私にとってはとんでもないイベントだ。
クラスの女子ともまともに話せない私が、まさか男子となんてそれこそ夢物語だ。でも、夢の中以外で私に話しかけてくれるなんて朝茄君はなんて寛大な人なんだろう。




字、汚いとか思ってたりして・・・。あ、もしかして問題ミスってたりとかしてないよね・・・?

本を読んでいる振りをしながら神経すべてを朝茄君に向ける。文を読んでも頭に入ってくるわけがない。しかし、表情は周りに訝しがられないように私の得意な無表情の仮面を被る。
私は元々感情をそこまで外に出すタイプじゃなかったけど、それ以上に無表情を保つこともできるのだ。


ノートを宿題を見せるために貸しただけ。言ってしまえばたったそれだけなのに。朝茄君と話すことだって、ほとんどが「宿題みせて」「いいよ」の二言だけ。

本当にそれだけなのに。
気になってしまうなんて、私も軽い女だな・・・。




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