調理部なんてどうでしょう?
しかし、私が宮島君に背を向けて足早に元来た道を戻ろうとした直後、廊下の向こうから「おっほっほっほっほっほっ。」という何ともリアルでは恥ずかしい笑い声(?)が聞こえたので、私は足を止めた。

「宮島 康太郎君、上出来ね。ちゃんと部員を連れてきたこと、褒めてあげるわ!」

「ありがとうございます!華嬢先輩!」


高らかな声を響かせて歩いてきたのは、3年生と思われる女子生徒だった。しかし、私にはその先輩が本当に高校生なのか怪しく思ってしまうほど大人っぽい人に見える。モデル(もしかしたらそれよりも)のように長い足で、腰に片手をあて、なめらかでつやのある、パーマのかかった髪をなびかせているその姿は性別を構わずに思わず見とれてしまうほどだ。

そして、この人がおそらく猫塚先輩の言っていた人だな。なるほど、確かに大きいですね。そしてこの人が部長だな・・・。

「そこのあなた!」

「はいっ。」

いきなり呼ばれたので、驚いて固まりながら返事をすると、華嬢先輩はさっと持っていた紙を私に投げてきた。その紙は、ひらっと宙に身を翻して私の手元に着地した。見ると、「入部届」と一番上に印刷してある。

「ようこそ、調理部へ。私、華嬢 美桜が部長よ、次からは部長と呼んでちょうだい。」

「は、はい・・・。」

ちょっと待って私何返事しちゃってるのっ。
私はこんな部には入部するつもりなんてない!そうよ、だからさっきまで帰ろうとして・・・。

「あの・・・先ぱ「部長と呼びなさい。活動内容はその名の通り調理よ。それから、こちらの方が顧問の荒川先生。」

華嬢部長(これからはそう呼ぶことにしよう)は私の言葉を無理やり押し切って顧問の先生を紹介した。私はその時初めてそこにもう一人誰かがいることに気づいた。
どこの学校にもいそうな、ごく平凡なおじいちゃん先生だ。こんな色の濃いメンツ(もちろん私を除く)の中で、その存在にすら気づけなかったほど影がうすい。その先生は、よろしくという感じに頭を軽く下げた。

「これでいいかしら?もう聞きたいことはないわね?」

私は口を開けたまま固まってしまったままだ。駄目だ、こういう系の人には何を言っても通じない。一度、部員になったと認識されればそれまでだ。

「では、解散。早速今日の放課後から活動を始めるつもりなので、全員放課後にもう一度集まること。それから、入部届けを必ず荒川先生に提出しなさいね。」

華嬢先輩は口元に手の甲をやって、まるで貴族か、あるいはとにかくお金持ちの人がするようなポーズで命令(わたしには命令としか思えなかった)した。

駄目だ、なんてことだろう。想像していたものとだいぶ違う部活動になりそうだ。

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