スロウ・スノウ
見ればわかるようなことをわざわざ尋ねてくるのは実に、春瀬らしい。
思わず笑ってしまう。
彼もつられて笑った。
私がさっきまで読んでいた、一番のお気に入りの小説。
内容を事細かに語れるほど、もう何度も読んだ。
その中の一節。
“雪が溶けてしまって、この足跡が消えてしまっても
この道を歩いてきた、という思い出は一生残る”
ちょっとクサイかもしれない。
けれど、この一節がとても、好きだ。
でも、きっと。
窓の外。この初雪が溶けてしまったら、
私たちの思い出なんて、きっと、残らない。
「春瀬。
私、明日からもうここには来ないから。」