スロウ・スノウ
「……………え、」
目を見開いて、かすかに開いた彼の唇からこぼれる、その声。
「先輩、それは、」
「……そろそろ、本格的に受験勉強を始めようと思って。
5か月後には3年になるし」
「勉強なら図書室でだって、できます」
「勉強は一人で集中してやるもの、だから」
その言葉を聞いた瞬間、眼鏡の奥で見開かれていた目が、今度はすっと細められた。
春瀬は決して馬鹿ではない。
彼はずくに気がついたのだろう。
これは私なりの拒絶だ。
「────おれが、邪魔になりましたか。」
「……まあ、そんなところ」
嘘だ。
邪魔なのは、春瀬ではなく、私だ。
「っ、だったら!、」
怒ったように口を開いた彼は、
いいかけた言葉を飲み込んだ。
「……だったら、おれがここに来るのをやめます。」
「は?」
「“夕季先輩の場所”に足を踏み入れたのはおれの方です。」