スロウ・スノウ
「いや、でも、」
「明日から、放課後にこの場所に来るのをやめます。
……夕季先輩が卒業するまで。」
久しぶりに彼に呼ばれた、自分の名前。
それに意味があるのかないのか。
私には読み取れなかった。
それくらい、彼は怒っていて、……悲しそうだった。
「……今まで話し相手として付き合ってくださり、ありがとうございました。
お邪魔しました。」
彼は椅子から立ち上がり、私に深くお辞儀する。
そして、自分の荷物を抱えて、迷いなく図書室を出ていった。
───お邪魔しました。
きっと、私の場所へ踏み込んだことに対する言葉だったのだろう。
この言葉を吐き出すとき。
伏せられた瞳と、震えるまつげ。
さらりとした前髪が、それらを隠してしまう瞬間。
そんな残像がまぶたの奥に張り付いて離れない。
ああ、違う。
違う。
こんな結果にするつもりではなかった。