スロウ・スノウ




自分の片手にある、文庫本。







今、私の脳裏に浮かぶのはなぜか、最後に見た悲しげな表情なんかではなく。





初めて春瀬に声をかけられたとき。


互いの名前を知ったとき。


夢中で私に本の感想を語るとき。




そんなときの、彼の笑顔ばかりが、浮かび上がっては消えていく。





彼の笑顔を見る度、自分の中に染み渡るものは、なんだったのだろう。





どうしようもなく温かくて、それでいて、自分の胸をすくような。





< 29 / 48 >

この作品をシェア

pagetop