スロウ・スノウ
図書館内は暖房がきいていて暖かい。
が、冷え性な私は指先と足先がやけに冷えているのだ。
ふむ。
今日の春瀬はなかなか気が利いている。
「先輩、前にお勧めしてくれた本、読んでみましたよ!」
「……ああ、あのミステリー?」
「はい。すっごく、面白かったです。
あの所々に散らばったキーワードが───」
身をのりだし目をキラキラさせて、その本の感想を語る彼。
私が一週間ほど前に勧めた本。
どうやらかなり気に入ってくれたらしい。
春瀬は目を思いっきり細くして、八重歯をのぞかせて笑う。
無邪気な、人懐っこい彼の笑顔。
私は春瀬のそんな笑顔が、
「──先輩?大丈夫ですか?
なんだか今日はぼんやりしていますけど、」
どこか具合が悪いんですか?
そう、心配そうに私の顔をのぞきこんでくる、春瀬。
そんな彼のチョコレートブラウンの瞳に、無表情な自分がうつりこむ。
「いや……大丈夫」
とりあえず、そう答えて目をそらす。
彼がそのとき怪訝そうに少し首をかしげる姿に、私は気づかないふりをした。