スロウ・スノウ
そこで、二人の間に沈黙が重くのしかかった。
私の前に立つ春瀬は、何を話せばいいのか迷っているらしく、うつ向いてじっとしている。
どんな理由であれ、一度私に突き放されたんだ。
口が重くなるのも当たり前。
そう考えると、自分がやったことなのに胸が痛んだ。
「さっきは、ごめん。上靴投げて。
それで……この本、」
緊張で震えそうになる声。
どうか、春瀬にそれが悟られませんように。
私は普段通りの表情を心がけながら、さっき図書委員の子から預かった文庫本を差し出す。
すると、まばたきですら我慢しているかのようにじっとしていた春瀬が、息を飲んだ。
「っ、どうして、それ、」
そう呟き、顔を上げる春瀬。
本を差し出す私と目が合う。
すると、マフラーの下から半分ほど覗かせる彼の頬が、だんだんとに朱色に染まっていった。