愛の歌、あるいは僕だけの星

 言えば、ぎくりと肩を揺らす如月に思わず吹き出す。どこか照れた様子でぱたぱたと顔を仰ぐ彼女に笑いながら、オムライスを頬張った。

『過去に未来はない』

「え?」

『今日の映画の受け売り。ねえ、藤原君。あたし、ずっと過去を探してた。なんでこんな形で今ここにいるのか、やり残したことを思い出せもしないのに』

「如月……」

『過去に未来がないんだったら、未来は今この瞬間から繋がるのかな。それだったら、今ここにいるあたしにだって、何かやれることは残ってるんじゃないかと思って。それは例えば、藤原君に美味しいごはんを食べてもらうこととか』

 如月が、笑った。

『藤原君に、喜んでもらえてよかったよ』

 ほら、やっぱり駄目だ。どうしてだか、胸が苦しい。誤魔化すように、オムライスに視線を落とす。慣れない感情に、ざわざわと落ち着かない。けれど、それを失った時の喪失感を、銀也はもう知っていた。

「……じゃあ、お言葉に甘えて。次は和食がいいな」

『お任せあれ』

 そう言って得意気に胸をたたいた如月を、可愛いな、と銀也はひっそりと思って、慌てて首を横に振ったのだった。
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