愛の歌、あるいは僕だけの星
おかげで、最近では随分と調子がいいのも事実だ。心なしか身体も軽い。なんとなく悔しいから、彼女には言っていないけれど。胃袋も満たされて部屋を出る。生まれたての金色の日差しで水やりの済んだ庭の草花がきらきらと光る。すんと、大きく息を吸えば少し早い夏の匂いがした。
のんびりとした調子で校門を抜け、廊下を歩く。朝のホームルーム十秒前。珍しく今日は間に合いそうだ。思いながら扉を開ければ、その瞬間に担任教師の鋭い視線が銀也を射抜く。
「遅いぞ、藤原!」
「え、なんでだよ。まだセーフでしょ」
「俺の時計は、教室のより少し進んでんだよ」
「そんな無茶苦茶な!知らねえよ!」
いまいち納得もいかなかったけれど、それ以上は面倒だと軽く頭を下げて自分の席へつこうと足を向ける。
「おい、藤原。そのまま振り返って前を見ろ」
「へ?」
言われるがまま、教卓の方へと顔を向ければ、そこには見たことのない女生徒が緊張した面持ちで立っていた。こんな子いたっけ?銀也がちらりと隣に目配せすれば、如月が「転校生でしょ」と言った。