愛の歌、あるいは僕だけの星

「この遅刻・サボり魔が、この学校の生徒会長をやってる藤原銀也だ。後で、校内案内でもしてもらえ」

「だから、今日は遅刻してないって」

 小さく眉を寄せつつ、ちらりと転校生を見る。黒板には、担任によって随分と猛々しい文字で三原亜矢子(みはらあやこ)と書かれている。当の本人は華奢な雰囲気であるから、そのギャップが妙に面白い。

「まあいい。すまんな、三原。こいつの為にもう一度自己紹介してもらっていいか?」

 銀也に対するものと打って変わっての優し気な声音に、転校生はにっこりと笑って頷く。その瞬間、周囲の男共がうっとりとした表情で彼女を見つめた。

「三原亜矢子です。両親の仕事の都合で今回この学校に転入することになりました。どうぞよろしくお願いします」

 ぺこりと小さくお辞儀をする。如月が、銀也の横でほうっと溜息をつくのが聞こえる。

『すっごく可愛い子だねえ。ほら、藤原君も自己紹介しなよ』

「……ええっと。藤原銀也。生徒会長やってるので、まあ、なんか分かんないことあれば聞いてください」

 とりあえず、無愛想な態度でもした日には如月に容赦なくどつかれそうだから、当たり障りなく挨拶をこなしたつもりだった。それなのに、何を思ったのかクラスメイトの誰かが囃し立てるような声を上げる。
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