愛の歌、あるいは僕だけの星

「おまえ、ひとつ後ろに下がれ」

「はあ?何言ってんだよ、ゴッツ」

「ゴッツ言うな!」

 顔を真っ赤にして怒る担任に、「ごっつ?」と三原が不思議そうな顔をする。

「後藤剛志(ごとうつよし)、通称ゴッツ」

 クラスメイトの誰かが、すかさず三原に説明した。刈り上げで筋肉隆々の体格をした教師である。名前にしてもイメージにしてもぴったりのこの愛称なのだけれど、彼自身はこの愛称があまりお気に召さないらしい。

 しぶしぶ後ろに机をずらす。
 隣には、綺麗に磨かれた机が置かれた。

(これじゃ、教師から丸見えじゃないか)

 そっと、ゴッツを睨む。三原は、「よろしくね」と何度も言いながら歩み、そうして最後にもう一度。

「よろしくね、藤原君」

 にこりと微笑んで、席に座った。
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