愛の歌、あるいは僕だけの星

憧憬



「それにしても、如月に取り憑かれてからもう一ヶ月過ぎたんだな」

 弁当をつつきながら、銀也が不意にそんなことをぼやくものだから、夏は少し驚いた。過ぎ去ってしまった時間をそんな風に振り返る彼を、それまで見たことがなかったから。

 銀也と暮らしたこの短い間で、夏は彼の生まれ持った性質について気づいたことがある。

 それは、藤原銀也という人間が、あまりにも自由であるということだ。何にも縛られることがない。自由であろうともがくこともしない。

 面倒だ、邪魔であると感じれば、あっさりと切り捨ててしまえる人だということ。取り巻く事象も、人も、感情でさえもそうだ。それは、孤独と紙一重だということだけれど、きっと気にもしていないに違いない。

『ねえ、取り憑くとかいう言い方やめてくんない?デリカシーなさすぎ』

「だって本当のことでしょ」

 雲がゆったりと空を流れて、少しずつその形を変えていく。ぼんやりとふたりで見上げながら、銀也は不意に視線を夏へとやった。
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