愛の歌、あるいは僕だけの星
真横からぺちりと叩けば、銀也は大袈裟に顔をしかめてみせる。夏にはそんなに大層な力はないというのに全く彼はオーバーだ。
「如月、何か考え事してた?」
『え、どうして』
「ずっとぼーっとしてたから」
『それを藤原君に言われるのは結構不本意だけども。けど、やっぱり何もしないでいると、考えちゃって』
そっと自分の両手を見る。半透明で、いつ薄れて消えてしまってもおかしくない淡い存在。
『あたしが、まだこの世界に残っている理由』
最近じゃ、幽霊生活も随分慣れて、銀也をからかったりおちょくったりしながらそれなりに楽しく暮らしてもいる。不便だと感じることも少なくなってきた。
「そんな大層な理由が、お前にあるとは思えないけどなぁ……、だから、痛いっつーの!いちいち叩くなよ!」
『だってさ、特別大事な理由かもしれないでしょ』
思わず口にした"特別"という言葉を聞いた瞬間、銀也が密かに眉を顰めたことに気づく。小さな変化だけれど、四六時中一緒にいれば分かる。