愛の歌、あるいは僕だけの星

「なんだと!」

 声を上げる銀也に、くつくつと笑いながら夏が胸を張りながら言う。

『一番はね、番号や順位じゃないんだよ。最高っていう意味だから。だから、いくつあってもいいんだよ』

「……!」

『でも、あたしがまだこの世界にいる理由は、一番にはないと思うんだ。きっと、きっとね。それこそあたしの、特別にあるんだよ』

 銀也はしばらくの間、何も言うことをしなかった。ようやく口を開いて、どこか頼りない声音を漏らした。

「はやく、見つかればいいね」

『うん。ありがとう、藤原君』

「……はいはい。なんだか、段々冷えてきたな」

 どこからか流れてきた雲が、いつの間にか太陽を覆っていたせいで、日差しが閉ざされている。ひんやりとした空気に、銀也がそっと自分の腕を撫でた。

『まだ六月だしね。藤原君、ブレザー教室に置いてきちゃったじゃん。そろそろ戻ろうよ』

「そうするか。昼休みも、ちょうど終わる頃だしちょうどいいだろ」

 屋上の入り口から続く階段を降りていれば、丁度こちらに向かって階段を上がろうとしている人影が見えた。今の人影は。思わず、隣にいる銀也を見上げれば、彼も気がついたようで一瞬にして表情を隠す。
< 128 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop