愛の歌、あるいは僕だけの星

 音楽室は、校舎の裏手に位置するらしい。そこには、まさに女の子から告白を受けている銀也がいた。顔を真っ赤にして、銀也に懸命に言葉を口にしている女の子に対し、銀也はどこか浮かない表情をしている。

「銀也君、モテるのね」

 ぽつりと呟いた三原の言葉に、レンゲがぴたりと演奏する手を止めた。ぎい、と椅子を引いて視線を向けた。

「……ああ、もしかして藤原、真下で告白でもされてる?」

「まさにその瞬間」

「見た目だけはいいからね。見た目だけは」

 嫌そうに言うレンゲに、三原が不思議そうに首を傾げる。

「神谷さん、銀也君のこと嫌いなの?」

「別に嫌いになるほど関わりもないから良く知らなかったけど。クラス委員を夏から引き受けてから、仕事でやりとりすることも多くなってね。結構いい加減だし適当なのよ、藤原って」

「夏って?」

「元クラスメイトで、私の親友。藍色の花瓶が置いてある席に座ってたんだけどね、ことしの春に事故で」

 濁すようにレンゲが呟いた言葉をすぐに理解した三原は、「そうなんだ」と小さく呟く。そうしてすぐに窓の外へ視線を向けた彼女に、レンゲはすぐに何かを察したようだった。
< 133 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop