愛の歌、あるいは僕だけの星
銀也が先頭を切って教室を出るのに、彼女も慌ててついていく。すたすたと廊下を歩きながら、まるで独り言のように「それで、用事は何?」と呟く。後ろで息を呑むのが気配で分かる。ゆっくりと振り返れば、そこには彼女が顔を真っ赤にして佇んでいた。
「仕事の話じゃ、ないんですけど」
「そんなの知ってるよ。ただのポーズ。ああでもしないと、すぐくだらない噂が広がるから」
「くだらない……、ですか」
「そう。くだらないし、すごく迷惑」
吐き捨てるように言えば、目の前の彼女はどうしてか少し傷ついたような顔をして、「ごめんなさい」と頭を下げた。ここじゃちょっと……、と彼女が言うのに何となくこれから告げられることの予想がつく。何せ、こういうシチュエーションは、何度も経験があった。場所は、その時々で違ってはいたけれど、大抵告げられる台詞に大差ない。
連れたった場所は、校舎裏だった。真上は、確か音楽室だったはずだ。開いた窓から、ピアノの音色が漏れている。顔を真っ赤にさせた彼女は、今にも倒れてしまうんじゃないかと心配になるくらい、小刻みに震えながらもぎゅっと拳を握りしめている。