愛の歌、あるいは僕だけの星
ゆっくりと立ち上がり、倒れた机を元の位置へと戻す。視線を感じて振り返れば、如月がにこりと笑った。
先ほどの不安定な感情が嘘のように静まりかえる。どうしてだろう、彼女がいるだけなのに。
(というか、どさくさにまぎれて、夏……、とか呼び捨てにしてしまったような)
何だか妙に気恥ずかしくて、頬が熱い。
『銀也』
「え!?」
まさか、もう一度呼ばれるとは思わなかったから、驚いて声を上げれば如月はぱちくりと瞬きをする。
『なんだか、さっきから挙動不審なんですけど』
「……うるさい」
『え?反撃はそれだけ?本当に、どうしたの!? いつもと様子が……』
「なんでもないし。夏の、バーカ!」
だめだ、やっぱり恥ずかしい。ほんとうに、恥ずかしい。もう、本当に、なんなんだ。たかが、下の名前を呼ぶだけで。どうしてこんな。
おろおろと心配し始める如月から、銀也は何とか隠れようと、両手で顔を覆っていた。