愛の歌、あるいは僕だけの星
ふと、夏が立ち止まって首を傾げた。
『ねえ、帰り道こっちじゃないでしょ?』
不思議そうな顔をしている夏に、銀也は小さく頷いた。そして、通りを足早に急ぎながら、少し先に見える看板の光がついているのを確認してにこりと笑う。
「あ、よかった。まだ開いてた」
銀也が足を止めたのは、小さな花屋だった。
こじんまりとしているが、活けられている花はどれも生き生きとしていて、大切に扱われているようだ。
「いらっしゃいませ、贈り物ですか?」
女性店員が、銀也の姿を見つけて満面の笑みを浮かべ近づいてきた。掛けられた声に顔を上げた銀也を見て、すぐにその顔を赤く染めた。
「花束を、ひとつお願いします」
「は、はい……!かしこまりました」
店員は、なにやら最初こそ動揺していたものの、すぐにその表情を隠してテキパキと要望を聞き、花を選び手に取っていく。そうして出来上がった花束は、夏が好きだと言った暖色系で、彼女の雰囲気によく合っていると思った。