愛の歌、あるいは僕だけの星

 うなりながら、彼女が鞄から何かのチケットを二枚取り出す。なんだろうと首を傾げれば、「誠東文化祭」と自慢気に口角をあげる。一緒に、藤原銀也を見に行こうよ。それは、面食いな友人の思わぬ誘いだった。


 そうして友人に連れられて訪れた誠東学園の文化祭は、それはもう大盛況だった。幼稚舎から大学までエスカレーター式の私立学校としても有名だ。出店は、通っていた公立高校とは比べものにならないほど本格的で、どの店も押し寄せる客に長蛇の列を作っていた。

 比較的空いていたお店で、クレープを買った。時折、誠東高校の男子学生が、ナンパ目的で声を掛けてくるのが亜矢子は心底鬱陶しかったけれど、友人は満更でもない様子だったので、仕方なしににこにこと応対する。藤原銀也に会いたかったんじゃなかったのだろうか。きっと、理想と現実だろうな。と、生クリームをぺろりと舌でなめとりながら、ひそかに納得する。

 そうして、藤原銀也を探すという目的をすっかりあきらめた友人は、チケットをくれた子に会いにいくからといって、あっさりその場を離れていってしまった。
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