愛の歌、あるいは僕だけの星

『わたし、銀也のこと好きだよ。できるだけ一緒にいたいって思うから、うるさくいっちゃっただけ。それなのに、別れるなんて納得出来ない!」

 彼女は号泣しながら、藤原銀也に縋っている。実に、滑稽だなと思う。他人のこういう場面に出くわすのは初めてだけれど、なんだか目の前でドラマでも見ているようだ。

 何度ぬったのだろう、思わず問いたくなるくらい分厚いマスカラは、涙に滲みまるでパンダみたいだ。頬には幾筋もの涙のあと。さすがに、亜矢子でさえ可哀想だなと思えるくらいの風貌だ。

 彼女を、藤原銀也はどう慰めるのだろう。好奇心だけで、そっと彼の表情を見やる。その瞬間、身体をびりりと駆け抜けた衝動。どくん、どくんと、まるで身体全部が心臓になってしまっと錯覚するほど、脈打つ鼓動。

(彼は、何て目で他人を見るんだろう)

 亜矢子は、ごくりと息を呑んだ。
 冷たい目。凍てつくす氷のような瞳。何の感心も映さないそれに、魂ごと吸い取られてしまいそうだ。それはまるで、残酷で美しい人形のようでもある。そんな彼に、恐ろしいくらい自分が惹かれていくのが分かる。
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